人と人との“距離”を意識するようになって、はや丸2年。新型コロナの影響で、「会わない」がすっかり定着してしまった。それは他人だけではなく、家族もしかり。AERA 2022年2月28日号「親子の距離感」特集から。
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「カンパーイ!」
4分割されたパソコンの画面から、言葉が飛び出す。栃木県の森正之さん(85)ら家族のオンライン飲み会の一コマだ。20年7月から、日曜夕方の2時間、4世帯で集まってオンラインで「飲も飲も」と称した飲み会を開いている。
森さんは言う。
「孫はあまり参加しませんが、長女と次女、そして次女の友人の4家族で楽しんでいます。コロナが終息しても、続けたいというのが親の気持ちです」
長続きの秘訣は、みんなが食べることと飲むこと、そしてしゃべることが好きだから、と話し、こう続ける。
「コロナの前は、一緒に中国や台湾、北海道なんかを旅行した仲です。終息後は香港や韓国にも行きたいです」
オンラインで再認識した親子の関係を話す森さんから、熱さがみなぎっている。
かつてはメールや電話が主流だったが、今や文字や声色だけにとどまらない。離れていても顔を見て話せる画期的な時代になった。直接触れ合うことはできずとも、相手の温度感をつぶさに感じ取れる。
「顔が見える安心感」は、一見、当たり前のように思えるが、これらがスタンダードになったコロナ禍の進歩は大きい。テクノロジーが独り歩きすることなく、高齢の親世代が使える、または使ってみたいと思わせるものへと変わったからだ。
しかし、だ。
老親世代にとって、デジタルツールを巧みに使いこなすのは難しい。自分が頑張りすぎるだけでなく、必要以上に子どもに求めすぎることに発展しかねないからだ。
それまでは適度な距離感だったのが、ツールを覚えたことで頻繁にLINEでメッセージが届くようになり、スタンプと絵文字ラッシュが連日続く。子ども側ももちろん相手になってあげたいが、さすがにこれだけ多いとうんざり──そんなこともある。
■「娘大好き度」高まる
その結果、親の過干渉が進み、やや面倒な状態にまでなってしまったと話すのは、都内に住む50代の女性。
「ビデオ通話で私の顔が見えなくなると、すぐ大騒ぎするんです」
女性は3人きょうだいの末っ子で、唯一の女の子。両親から、一番かわいがられてきたと自負している。コロナ前は年数回帰省していたが、この2年は一度も帰っていない。そこで、Zoomを使ったオンライン帰省をするようになった。