イラスト/小迎裕美子(AERA 2月28日号から)
イラスト/小迎裕美子(AERA 2月28日号から)

 千葉県で暮らしている女性(42)も、親への愛が高まった。コロナで実家に帰りづらくなってから、神奈川県に住む母親(84)と毎日電話するようになった。天気の話から始まり、その日の予定や食べたものなど、他愛もないことを10分ほど話すという。

「数年前に脳梗塞で倒れて、リハビリ中にコロナが始まったんです。前から忘れっぽくなっていましたが、この2年で少し進んでしまって」

 外出制限で近所付き合いもめっぽう減った。放っておくと母親は一日中テレビを観ている。それならば外から刺激しなければと、女性は朝と夜の2回、電話をかけている。

「母が起きているときに電話しないといけないので、忙しいときは大変だと思うこともあります。でも、電話を切るときに合言葉のように『声聞けてうれしかったわ』『夢で会いましょ』と毎回言っているので、喜んでくれているんだなって」

 意識的に子が親を思う関係性へと変わった。

■面倒でも罪悪感は不要

 わずらわしくもあれば、愛くるしくもなったコロナ禍の親子の形はさまざまだ。アエラでは、インターネットを通してコロナ禍の親子関係についてのアンケートを実施。すると、

「親は老人ホームに入所していて、感染防止のため面会制限を設けてくれた。それに乗じて面会に行かずにすむので楽ができてうれしいが、親は不満げ」(49歳・女性)
「LINEの頻度も減り、会えないので意思疎通ができなくなった」(59歳・男性)
「緊急事態宣言下に理由もなく帰省を強いられた」(54歳・女性)

 など、物理的な距離に比例して、心の距離も遠ざかったというケースも寄せられた。

「もし、親からの連絡が面倒だと感じたとしても、罪悪感を持たなくていいんです」

 そう指摘するのは、『家族難民』などの著書もある中央大学文学部の山田昌弘教授だ。もともとの関係性が顕在化しただけと指摘し、こう続ける。

「家族と向き合わざるを得なくなった結果、価値観や性格の不一致がはっきりしてしまっただけです。そもそも親子は対等な関係ではないし、親を悲しませたくないと思って子どもが我慢していることも多い」

 親をいかに自立させ、子に依存しないよう気づかせるかも、子どもの課題になってくるという。山田教授が続ける。

「日本の中高年の親は子どものために生きてきた人が多い。子どもが生きがいだった。ただ、親が思う幸せが子どもの幸せとは限らない。共依存になると、動きが取れなくなる。親が子どもに依存している状況は良くないので、子どもは親に気づかせる努力も必要です」

 親子関係に歪みを感じたとき、何ができるのか。大切なのは、「家族だから」という神話にとらわれすぎないことだ。

「親の幸せが子どもの幸せ」とは言ったものだが、それはあくまでたとえ話。「親対子」の関係性にはまりこむと、そこで不和が生じたときに抜け出せなくなることもある。

 親も子どもも「応えられる期待」と「応えられない期待」を割り切ることも必要だ。(編集部・福井しほ、ライター・羽根田真智)

※AERA 2022年2月28日号より抜粋

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