ではどうするか。ふと、「共存」という言葉が浮かびました。「がん細胞さん、なんとか折り合いをつけてやっていこうよ。お願いね」と、自分のからだに語りかけてみました。抗がん剤も、副作用におびえながら投与するのではなく、「頼むよ、私のからだをどうぞよろしくね」と穏やかな気持ちで治療を受けるようにしました。そのおかげかはわかりませんが、治療を続けて1年後にがんは姿を消してくれたのです。
治療を休止して3年、体調は安定しています。先のことはわかりませんから、「いま」を楽しもう、いま笑顔でいようって思っています。もちろん気持ちが沈むことも苦しくなることもありますよ。そんなときは思いっきり泣きます。どん底まで落ちたら、浮上するだけです。
■「そんな日もあるさ」さらりと励ます息子たち
3人の息子たちはそんな私を自然体で受け止めてくれています。「副作用でつらい」と言うと「そんな日もあるさ」と返してくれる。その軽さが心地よいんです。以前、料理中に気持ちがどんどん落ち込んで、シンクの角に鍋をたたきつけたことがありました。その音を聞きつけて三男が来てくれたのですが、何も言わずに黙々と鍋を修理し始めたんです。ハンマーで鍋をたたきながら「ダメだ、直らないよ。もうちょっとうまくやってよね」って(笑)。
息子たちだって不安だと思います。私の母に「お母さん死んじゃうの?」と聞いたり、兄弟で相談したりしているみたいですが、私には何も言いません。ありがたいですね。
2度の再発を経て実感しているのは、患者自身が正確な知識を持つことの大切さです。医師に丸ごとおまかせするのは、自分に対して無責任だったなあと思っています。私も勉強しなくちゃと、2年前にユーチューブチャンネルを開設し、腫瘍内科医の勝俣範之先生から正確ながん知識を学んでいます。
ネット上のがんの情報は玉石混交で、不安をあおる言葉が検索の上位にくることが多いですよね。まずは信頼できる本やムックで情報を集めることをおすすめします。そのうえで医師とコミュニケーションをとりながら治療していくことが、病気の治療で一番大事なことではないかと、私は心から思うのです。
(文/神 素子)