一方、過食症は食欲をコントロールできず、短時間に大量に食べる「無茶食い」をする。食後は激しい自己嫌悪に陥り、過食をなかったことにしようと口に指を突っ込んで吐いたり下剤を乱用するといった「代償行為」をおこなうのが特徴だ。
吐くと一時的にスッキリするが、からだは飢餓状態になるのでまた食べたくなり、食べ吐きの頻度が増えて習慣化する。体重や体形へのこだわりは拒食症ほど強くなく、代償行為をしていてもからだにある程度の栄養は残るので、体重が極端に落ちることはない。嘔吐によって逆流した胃液で歯が溶けたり、下剤の乱用で腸から出血することはあるが、命を落とすような合併症も少ない。
「ただし食べ物を調達するためにお金がかかったり、万引きをしたりするなど、生活面にも悪影響が出ることが少なくありません。体形が正常範囲なので周囲からはわかりづらいのですが、患者さんは拒食症とは違う苦悩を抱えています」(同)
■発症のきっかけやなりやすい要因とは
若いころは「やせたい」と思ったり、ダイエットに挑戦したりするのはよくあること。なぜ摂食障害に陥ってしまうのか。
日本摂食障害協会理事長の鈴木眞理医師は「近年の研究で、発症のきっかけや、なりやすい要因が解明されてきました」と話す。
まず遺伝的な素因だ。拒食症になりやすい遺伝子があることはすでに明らかになっている。性格面では、真面目で完璧主義の人。一度決めたことはやり通さなければと自分を追い詰めてしまうので、ストレスをかかえやすい。ストレスの対処法にも特徴があり、がむしゃらに頑張るか我慢するだけで、人に相談や援助を求めるのは苦手で、ためこんでしまう傾向がある。こうした人が全員摂食障害になるわけではないが、そうでない人と比べるとなりやすいという。
さらに鈴木医師は、「文化社会的な要因も大きくかかわっている」と指摘する。
「1980年代から摂食障害の患者さんがとても増えました。ちょうど『やせている人は美しい』『やせたら自信が持てる』といったメッセージがメディアからさかんに発せられ、『やせ礼賛社会』となった時期と重なります」