さて、悠仁さまだ。筑付進学に河西さんが感じるのは、「自己実現」を重視する世の中の空気。生物への興味を持っている悠仁さまだから、学習院でなく幅広い選択のできる高校へ。そういう秋篠宮家の判断はわかるが、でも、と続けた。「そもそも天皇は公平な立場が求められ、競争となじまない存在ですよね」
筑付は偏差値70を超す難関校。そこを選んだことで、東大を頂点とした大学の序列強化に「将来の天皇」が与してしまうのでは。そう危惧している。
また『昭和天皇拝謁記』の話をするのだが、2巻になると田島氏が皇太子を冷静に観察する記述が増える。例えば51年9月3日の記述だから、上皇さま17歳。軽井沢で2日、共に時間を過ごして感じたこととして、天皇にこう伝えたとある。<(皇太子は)御自分のきらいないやな事は少しもなさらない様に御見受け致しました>
天皇とは孤独な存在
率直に伝える田島氏を知り、河西さんに、こう聞いてしまった。「現在の天皇や秋篠宮家に、こういう人はいるのでしょうか」。すると「孤独」の話になった。
天皇とは、孤独な存在だ。だから、誰かに話を聞いてほしい。そのためには信頼関係で、田島氏と昭和天皇との間にはそれが形成されていった。が、象徴天皇制が軌道に乗るにつれ、宮内庁は普通の官庁になっていった。縦割りで人事も頻繁(ひんぱん)、皇族がじっくり信頼関係をつくれる環境にない。「戦後皇室が抱えてきた問題です」と河西さん。
皇室で唯一の若手男子、悠仁さまは大変だ。とはいえまだ15歳。「友人は最良の師にて、切磋琢磨御必要のこと」とは、田島氏が15歳の上皇さまに伝えた言葉だ。春、悠仁さまの切磋琢磨が始まる。(コラムニスト・矢部万紀子)
※AERA 2022年3月7日号