なぜ忌日は季語になり得るのか。

「その方に歴史的業績があるからでしょう。亡くなった日と紐づける発想は、その人を顕彰したい気持ちがあるからだと思います」(同)

 一方、存命中の人の名前が季語になるのはまず無理、と水野さんは繰り返した。

「亡くなった人の歴史的な評価が確定してくると季語になり得ます。例えば、安倍晋三元首相が亡くなった日にちなんだ句を、仮に『晋三忌』として誰かが作ったとすれば、最初のうちは季語としては認知されないでしょう。その句にひっかけて、安倍さんが好きだった夏の花や食べ物を組み合わせた俳句を作れば、有季定型の悼む句になります。晋三忌といわれる俳句がたくさん出てくれば、いずれ夏の季語として認知されるかもしれません。それも亡くなってから、10年とか20年経たないとなかなか難しいでしょう」

 安倍元首相ほどの有名人でも歴史的評価が定まり、忌日が季語になるには時間がかかるということのようだ。

 結局、「稲川淳二」が季語に、という事実はつかめなかった。だが、目くじらを立ててファクト・チェックする必要はないように思う。むしろ、きな臭い話題が多いなか、この世の熱狂とは適度に距離をおいた、「ほっこりネタ」を提供してくれた稲川さんのセンスに拍手を送りたい。(編集部・渡辺豪)

AERAオンライン限定記事

著者プロフィールを見る
渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

渡辺豪の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
ヒッピー、ディスコ、パンク…70年代ファションのリバイバル熱が冷めない今