猛暑が続く7月の終わり。「稲川淳二」が夏の季語に、というツイートが突如話題にのぼった。稲川さんといえば日本を代表する怪談の語り手。「なるほど」と思った人も多かったはず。しかし調べると、浮かんだのは死者にまつわる話だった……。
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<3、4年前に、俳句協会から「稲川淳二さんが夏の季語になりました」という、ご連絡をいただきまして、身に余る光栄でありますが、どうやら私も夏の風物詩になったようです>
発端は、稲川さんが7月27日に自身のツイッターに発信したこのツイートだ。関連ワードがトレンド入りし、ネット上は「稲川淳二」を用いたにわか句会でにぎわっていた。
だが、ネットで調べた限り、「俳人協会」「日本伝統俳句協会」「日本俳句協会」などはあったが、「俳句協会」という団体は見つからなかった。
「稲川淳二さんの件では出版社を含めて3、4件問い合わせがありました。稲川さんがつぶやいた『俳句協会』はうちではありません。たぶん他の協会でも、ええ?と思うでしょう」
取材に応じてくれたのは、「現代俳句協会」の水野二三夫事務局長(71)だ。
俳句の季語はどういう基準で決められているのか。
「季語は歳時記を編さんしている編集者が取捨選択して決めます。歳時記は江戸時代から出版され、その時々の社会情勢や文化的・歴史的背景を踏まえて採録しています。いわゆる『雪月花』は古来の季語の基本ですが、明治以降の西洋化の影響も反映し、例えば、『クリスマス』も年末の季語になっています。現代俳句協会も10数年前に歳時記を編さんしましたが、少なくともそこには『稲川淳二』は掲載していません」
歳時記はさまざまな出版社が発刊しており、大型書店では20冊ほど並んでいるという。それぞれの歳時記に編さん者がいて、主に現役の俳人や文学者が担っている、と水野さんは説明してくれた。
「そもそも個人名はまず季語の対象にはなりません。なぜなら、一つの言葉が季語として認められるには、広い社会的認知度と、その言葉を用いたすぐれた俳句作品が広く知られていることが不可欠だからです」