本人たちは、自分たちが世話になった『R-1』に恩返しをするという気分になれるし、出場する芸人も、実際に『R-1』で戦って実績を残してきた芸人が審査をするのであれば、結果にも納得ができる。

 芸歴10年を超えて出場資格を失った彼らが審査員になったのは、本人たちにとっても出場者にとっても大きな意味のあることだったのだ。

 バカリズム、小籔千豊以外の決勝審査員は、陣内智則、ハリウッドザコシショウ、野田クリスタルの3名である。ハリウッドザコシショウと野田は『R-1』で優勝した経験を持つ。実際に優勝した人が審査をするというのも、出場者にとっては望ましいことであるに違いない。

 出場資格が「芸歴10年以内」になったことで、芸歴10年以上のピン芸人は参加することができなくなり、1つの目標を見失うことになった。だが、芸歴制限ができたことで、『R-1』に出ていた芸歴10年以上の芸人を審査員に組み込むという新たな動きも生まれて、出場する芸人にとっては今まで以上にやりがいのある大会になった。

 準々決勝と準決勝をライブ配信で一通り見た限りで言うと、芸歴10年以内だからといってレベルが落ちたという印象は全くない。むしろ、芸歴の長い芸人が「生き様」を見せるような泥臭い芸の割合が減って、純粋にしっかり構築されたネタが増えていて、その意味での見ごたえはある。リニューアル後の2回目を迎える新生『R-1』が大いに盛り上がることを期待している。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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