――さまざまなジャンルで活躍を見せても、「歌舞伎があっての僕」と基軸は揺るがない。そんな中で松也が見据える課題とは。
尾上:これから若い10代~20代前半の方たちに演劇の魅力や素晴らしさをどうやって伝えていくべきか。それは歌舞伎だけでなく、演劇界全体の課題だと思います。SNSが発達すればするほど、劇場に足を運ぶという選択のライバルが増えてしまう。こういう状況だからこそトライしなければいけないことはありますが、トライした結果、劇場に足を運ばなくてもいいという危険を孕むことも感じます。だからこそ、僕個人としては、どんなにコロナ禍が長引いても、演劇は続けていくことを願っています。
でも、これは皆で一緒にやらないと追いつかない。歌舞伎は若い世代に興味を持たれにくい面もありますので、そのハードルをどれだけなくせるかが課題です。
歌舞伎は生き残るために先輩方が新作を作ったり改革をされたり、いろいろな工夫をしてきました。改革も歌舞伎の伝統の一つであり、その結果、今があります。僕らもこの時代で改革に挑まないといけない。ですが、実は僕らの世代の10歳くらい下の世代からが一番大変かもしれません。最近は、彼らに少しでも役に立てるようなことをしたいと思っています。

■自ら発信していきたい
――そんな思いがあるからだろうか。最近は俳優業だけでなく制作への意欲も口にする。
尾上:昨年は、ドラマ「まったり!赤胴鈴之助」や、新作歌舞伎「赤胴鈴之助」、昨年11~12月に行った舞台「あいまい劇場其の壱 あくと」の3本で企画・脚本段階からかかわりました。ゼロから作品を立ち上げ、演出ではありませんでしたが、役者である前にすべてを総括してみるという感覚を味わいました。
3作品が続いたことは、とても大変でしたが、その達成感は役者だけでは感じ得ない充実したものでした。
これからも、制作面でもいろいろな企画を自分から作って発信していきたいという気持ちになりました。その延長で演出にもチャレンジしたいという気持ちが湧いてきています。
(構成/フリーランス記者・坂口さゆり)
※AERA 2022年3月7日号