――ジャンルを超えた活躍を見せるが、ミュージカルは「ライフワークとして続けていきたい」と言い切る。ミュージカルと歌舞伎は「感覚的には同じ」だ。
尾上:もちろん、歌う技術はより必要になります。ですが、歌舞伎は俳優が歌ってこそいませんが、歌うように作られているセリフはたくさんあります。七五調のセリフはある程度のリズムとメロディーの中に感情を込めて背景を入れる。ドラマ性の高い「義太夫狂言」という演目は、義太夫の語りと三味線の音に自分の感情と体を合わせて表現する。音楽、メロディーを用いながら表現することは、歌舞伎が歌と舞うと書く通り、歌舞伎がずっとやってきたことです。それは僕が歌舞伎の世界で当たり前に勉強してきたことでもあります。ですので、初めてミュージカルに出演した時は、歌舞伎の感覚と同じだなと感じました。
歌舞伎で先輩方によく「気持ちが入ってないだろ!」とご指導をいただきましたが、それは先輩の節回しをなぞるだけだったから。ミュージカルも同じです。メロディーがあってその歌に沿って歌っても、なぞっただけでは芝居にならない。気持ちを入れる必要があります。
■すべてが還元される
――すべてに長けた俳優はいないからこそ、自分を知り、何に対しても貪欲に挑戦してきた。
尾上:役者はそれぞれ持ち味が違います。すべてができる方は本当に数少ない。演技はほぼパーフェクトだけど身長が足りないとか、とてもイケメンで背も高いのですが歌が歌えないとか。誰もが欠点もあれば長所もある。すべてがうまい方だらけでもきっとつまらないですし。僕が好きな役者、うまいなと思う役者の多くは、自分の武器が何かを知っている方です。知った上で、いつ出すかを知っている。それができる役者にすごく憧れます。自分自身、表現には貪欲なほうかと思います。ここは負けないということは自分の中では持っているつもりです。
――役者は経験がつながっていくもの──。彼の中には境界線がない。歌舞伎もミュージカルも舞台もドラマも映画も、「演じた役すべてが自身に還元されていく」と言う。
尾上:役を通して何かを表現するということは、言ってしまえば、バレエだってオペラだって演劇という意味では全部一緒です。歌舞伎で勤めたお役は次の舞台で生かされ、さらにそれが次のドラマに生かされる……というように、経験した役はそれぞれ影響し、自分自身に還元されると思っています。