ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、ロシアに依存してきたエネルギー政策が転換に迫られている。今後、エネルギー市場はどう変化するのか。AERA 2022年3月14日号は、日本エネルギー経済研究所・研究主幹の伊藤庄一さんに聞いた。
* * *
ウクライナ侵攻で、世界第2位の天然ガス生産国、第3位の石油生産国であるロシアは完全に国際的な信用を失いました。
特に欧州各国はパイプラインを通じてロシアから天然ガスの供給を受けています。エネルギー安全保障の観点からも、対ロ依存率を激減させる必要に迫られています。コストと時間がかかりますが中長期的には可能です。ロシアは最大のエネルギー輸出先である欧州に対して「宣戦布告」したものの、「自殺行為」になる可能性もあるわけです。
まず、今後10年で欧州のエネルギー地図は激変するでしょう。世界的な脱炭素・低炭素化の流れが強まっていますが、足元の現実を直視すれば、即座に再生エネのみに頼ることはできません。引き続き天然ガスの有効利用が重要です。その時、欧州への供給元として重要な役割を果たしうるのが、ロシアが最も敵視する米国です。米国を含む産ガス・産油諸国が輸出能力を強化してゆくでしょう。
また東中欧諸国は石炭の大消費地域です。脱炭素の観点から、石炭火力発電への風当たりが強まっています。しかし、その当否の次元とは別に、安価な石炭を利用し続けることも当面は選択せざるを得なくなりました。
東中欧にはロシア製の原子炉が数多くあります。原発の新設や更新をする際は、非ロシア製を優先せざるを得なくなりました。核不拡散の観点からも、ロシアの協力が取り付けられなくなった点は見逃せません。最も重要なのは原子力の安全利用の確保です。テロ対策、サイバー攻撃などへの対策強化が急務です。
国際エネルギー市場は世界一体で動きます。欧州市場の激変は当然、アジアを含む国際市場に革命的変化を及ぼします。日本にとっても決して「対岸の火事」ではありません。世界屈指のエネルギー消費国だからこそ、平和的手段で世界に貢献できる機会と捉えるべきでしょう。