2011年3月11年に発生した東日本大震災から11年。被災地では人口流出が続き若者の割合は総じて低い。だが、それぞれの決意を胸に、故郷と向き合う20歳前後のZ世代は少なくない。若者たちを動かすのは何か。AERA 2022年3月14日号から。
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震災が起きた時、Z世代は小学生か中学生。あの日を境に人生が大きく変わったが、成長していく中で、自分にしかできないことに気がつく若者は多い。
「被災した自分たちだからこそ話せると思います」
武山ひかるさん(21)は言う。震災の教訓を伝える語り部だ。
津波で沿岸全域が壊滅的な被害を受けた、宮城県東松島市の出身。震災時は小学4年生。大きな揺れの後、児童たちは校庭に避難した。しばらくすると、迎えに来た保護者と一緒に帰る児童もいた。しかし地震から1時間近くたった時、黒い水が町に押し寄せた。濁流にのまれ、帰宅した児童11人が犠牲になった。その中に同級生もいた。
地震の後には津波が来るとわかっていたら、絶対に戻ってはいけないと伝えられたのに──。
友だちの命を守れなかった後悔が残った。中学生になり、自分にも何かできることがないかと考えていた時、一つ上の先輩が「語り部」活動を始めた。語り部ならできると思い、高校1年の夏から語り始めた。
震災の体験、震災から学んだこと、未来への学びとなること……。全国各地を奔走する。若い自分にできるのは、大人の語り部とは違う視点で話せることだと言う。
「大人の語り部は、家族や子どもをなくしたり、家が流されたりしたつらい気持ちを話してくれます。私たちは、あの時、学校でどんなことがあったか、苦しんでいる親を見てどう思ったか。大人たちが知らない部分を話すことができます」
人前で震災の体験を話すことで、自分も心の整理ができ、救われていると感じるともいう。
大学は、東京福祉大学(群馬県伊勢崎市)に進学した。いま3年生。社会福祉学部で、福祉の専門職「スクールソーシャルワーカー(SSW)」を目指す。学校で家庭環境など悩みを抱える子どもたちの福祉に携わる仕事に就くのが目標だ。