基本政策に「成長と分配の好循環」を掲げる岸田文雄首相は、賃上げを呼びかけている。たとえ現役世代の賃金が引き上げられても、個人消費の3~4割を占める65歳以上の高齢者の生活が苦しくなると、熊野さんは「好循環が起こりにくくなる」と懸念している。
年金支給額について「マクロ経済スライド調整をしていると、どんどん厳しくなる」と熊野さんは指摘する。受給者の家計は自衛策を講じるしかなくなる。
年金制度の問題はまだある。年金の積立金の運用についても「運用がプラスになっても収支を見直さないのでいいのか。変化が収支になかなか反映されない」(熊野さん)。
そんななかで、荻原さんは、政府が年金支給開始を現行の65歳から、70歳へ引き上げる布石を打っているとみている。少子高齢化で年金財政は厳しくなっており、政府は定年退職年齢を引き上げるよう働きかけている。「コロナの問題が一段落したら、70歳支給になるだろう」(荻原さん)
「見直しは不人気で後手後手に回ってきた」(中嶋さん)という年金制度。物価が上昇する中で年金支給額が下がる高齢者は受難の時代を迎えた。年金制度が信頼できる社会保障となるように、制度設計の見直しが必要なのかもしれない。
(本誌・浅井秀樹)
※週刊朝日 2022年3月18日号