最近の現役世代の平均賃金の動向を見ると、コロナ禍の20年度に下がっており、その影響が大きい。一方、21年度の平均賃金は反動で上がっている。23年度の公的年金支給額を見るうえで、過去3年のうちの20、21年度とともに、22年度の平均賃金がどうなるのかがポイントになる。
23年度の年金支給額について、中嶋さんは「最終的にちょっとプラスかゼロぐらいになるのでは」とみている。その理由は、物価や賃金が上昇していく一方で、スライド調整率の繰り越し分がマイナス0.3%分もあるため、それを差し引く必要があるのだ。
つまり、物価が上昇していくなかで、今年4月以降の年金支給額は0.4%の減額となることが決まっており、来年4月以降も、若干のプラスか現状維持にとどまる見通しという。
現行の年金の仕組みについて、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生さんは「物価上昇が進むタイミングで、何とも酷なことを政府は決めたと感じられる」という。年金生活者には物価上昇と年金カットのダブルパンチになるからだ。
昔は現役世代が支払う保険料率を引き上げて、年金支給額が下がらないようにしてきた時代もあった。しかし、それだと現役世代の負担が大きくなってしまう。「世代間の不公平が起こりやすい」(中嶋さん)。このため、年金制度は長年の改定で、年金財政を支える勤労世代と年金受給者で「痛みを分かち合ってもらう」(同)仕組みになった。
一方、年金制度について議論をしたときは、現在のような経済社会の状況を想定していなかったという。たとえば、「年金が増えなくても預金金利がプラスなら生活の足しになるだろう」(熊野さん)という考え方もあったが、いまはゼロ金利状態で、預金があっても金利収入がほとんどない人が少なくない。
年金制度を04年に見直した際に「国は100年安心と言っていた」(荻原さん)。物価が上がっても年金支給額が下がれば「節約しましょうという大キャンペーンになる。無駄なものを買わないようにして、どんどん消費が縮んでいく」と荻原さんは話す。