ロシアによるウクライナ侵攻で、頻繁に耳にするドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国などの未承認国家。これら未承認国家の今後の行方は。AERA 2022年3月14日号で、廣瀬陽子・慶応大学総合政策学部教授(国際政治、紛争・平和研究、旧ソ連地域研究)が解説する。
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今回の侵攻でよく話題になる「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」。ウクライナ東部で親ロシア派が支配するこの2地域は、2014年のロシアによるクリミア併合の際に分離独立を宣言して以来、国際的には国家承認を得られていない「未承認国家」です。なぜ未承認なのか。主権国家の一部である未承認国家に国家主権を認めてしまうと、主権国家の主権を侵害するため、国際社会は受け入れられないからです。
旧ソ連圏内には未承認国家がいくつかあります。1991年のソ連解体で分離独立を宣言したジョージアの「アブハジア自治共和国」「南オセチア自治州」。アゼルバイジャンの「ナゴルノ・カラバフ共和国」。モルドバの「沿ドニエストル共和国」。それらの誕生までの支援やナゴルノ・カラバフ以外の財政・軍事支援をロシアが行ってきた。
ドネツクとルガンスクを、プーチンは2月21日、「国家承認」しました。たとえば「沿ドニエストル共和国」をロシアは国家承認していませんが、そもそもロシアにとって、ロシアの勢力圏を維持するためにも「承認しないままの方がトク」なのです。未承認国家がある国はロシアとの関係が微妙な、いわば「反ロ」的な国。そういう国を抑え込んでいくときに「未承認国家を人質として握ってその国内に留めておく」ことは一つの有効なカードになる。ではなぜプーチンは承認したのか。そこに論理性はなく、単に怒りの感情に任せて、の一言だと思います。08年、ジョージアの「アブハジア」「南オセチア」を国家承認した時も、ウクライナとジョージアにNATOの加盟行動計画「MAP」を適用する話が出たことに腹を立てて、と私は見ていますが、今回も同様でしょう。