有名監督の助監督を務めてきたクリストス・ニクの監督デビュー作「林檎とポラロイド」。女優のケイト・ブランシェットに絶賛され、第2作はブランシェットのプロデュース、キャリー・マリガン主演のハリウッド作品に決定。一躍世界が注目する監督に。
「お名前は?」「覚えていません」。バスの中で目覚めた男は記憶を失っていた。覚えているのはリンゴが好きなことだけ。治療のための回復プログラム“新しい自分”に参加することに。毎日リンゴを食べ、送られてくるカセットテープに吹き込まれた様々なミッションをこなしていく。自転車に乗る、ホラー映画を観る、10メートルの飛び込み台からダイブする――そして新たな経験をポラロイドに記録する。
毎日のミッションをこなし、「新しい日常」にも慣れてきたころ、買い物中に住まいを尋ねられた男は、以前住んでいた番地をふと口にする。記憶はどこに行ったのか? 新しい思い出を作るための不思議なミッションが、この男の過去を徐々にひもといていく。
本作に対する映画評論家らの意見は?(★4つで満点)
■渡辺祥子(映画評論家)
評価:★★★★
なぜかわからないけど妙に気になる美しさ、作り手の強い意志の力を感じる映像がなにより魅力。記憶喪失の治療にポラロイドカメラ? 少し悲しげだけど乾いて、どこか可笑しさもある主人公から目が離せなくなっていく。
■大場正明(映画評論家)
評価:★★★★
独特の色彩や構図、アナログへのこだわりなどを駆使し、説明に頼らず自然に現実とは違う世界に引き込んでしまう感性と手腕に唸る。記憶とアイデンティティーの関係を問い直し、情報過多の時代に考察を加える視点が鋭い。
■LiLiCo(映画コメンテーター)
評価:★★★
人間の脳の働きと記憶は本当に不思議。悲しくて切なくて愛おしい。プログラムをこなす主人公の迷いは滑稽に見える瞬間も。彼を見つめながら自分だったら何をまた思い出したいのか。そこからわかる自分の好きなもの。
■わたなべりんたろう(映画ライター)
評価:★★★
SF的設定ながらCGやアクションはなく日常の描写のみで展開。記憶喪失&アイデンティティー喪失のヘヴィな状況を、オフビートなユーモアと鋭いカッティングの編集で魅せる。注目すべきギリシャからの新たな才能だ。
(構成/長沢明[+code])
※週刊朝日 2022年3月18日号