■業界の「深掘り」を堪能
17年2月、2人は共同でミツモアを立ち上げた。最初に石川がやったのは大好きなリサーチ。ハウスクリーニング、庭師、税理士。各業界の人たちにインタビューし、業界の仕組みや商慣習を徹底的に調べ上げた。膨大なデータを元に価格決定のメカニズムを解析し、それを柄澤がシステムに落とし込む。
「へえ、この業界ではこんな決まりになってるんだ」「こうやって値段が決まるのか」
コンサル時代、先輩に「やり過ぎ」と言われた「深掘り」を石川は思う存分堪能した。家の間取りから外壁塗装の予算を割り出す方法。家族構成が分かれば家具の容量が推測でき、トラックの積載量が決まる。それに移動距離をかければ引っ越しの予算が分かる。石川はブルドーザーのような勢いで様々な業種を深掘りしていく。
その膨大なデータから共通点を見つけ、見積もりの仕方を汎用(はんよう)化するのが柄澤の仕事だ。業界ごとにシステムを作っていたら、いくら時間があっても足りない。一つの業種のシステムを作るのに3カ月はかかるため、個別に300業種作ったら900カ月、75年もかかる。しかし共通点を見つけてテンプレートを作り、業界ごとに味付けを変える方法なら、開発期間は一気に短縮できる。柄澤の言う「見積もりテクノロジー」だ。
柄澤が設計したシステムに石川が掘り起こしたデータを入れていくと、マッチングの精度は面白いように上がっていった。データが増えるほど、ミツモアの利用者は痒(かゆ)いところに手が届く検索結果を導き出せる。
例えば、写真家でもポートレートが得意な人、商品写真が得意な人、インスタグラムに「映える」写真を撮るのがうまい人など、様々なタイプがある。それを整理していくと「2千件以上の結婚式を撮影したカメラマン」「創業100年の地元密着工務店」「国税OBの税理士」「英語で生け花を教えられる先生」といった一人一人の「ブランディング」が可能になる。利用者の側にも「子どものサッカー大会の写真を撮って」「ネットショップのサイトに掲載する自社の商品を撮影して」といった様々なニーズがある。いくらネットで調べても出てこなかった、希望ぴったりの事業者を見つけられるようにしていった。