■事業でGDPを増やす

 ミツモアを立ち上げた時、もう一人、メンターのような存在がいた。伊野友紀だ。

 06年、新卒エンジニアとしてヤフーに入社。3年務めてグリーに移った。執行役員としてウェブゲーム事業を統括し、300人のチームを率いていた。

 30代半ばでまとまった額の資産を持った伊野は、自分の成功を次の世代につなぐ「ペイフォワード」として、スタートアップに資金を提供する投資を始めた。その中の一つがミツモアで、立ち上げの段階から石川や柄澤の相談に乗ってきた。

 創業から3年経った20年、石川が改まって頼んだ。

「伊野さん、そろそろ本気でミツモアに入ってもらえませんか」

 ミツモアはカバーする領域が広がり、社員も200人に迫っていた。「自分の経験が生かせる段階にきた」と判断した伊野は同年11月、ミツモアに入り、翌年4月に取締役COO(最高執行責任者)を引き受けた。

 日本には380万の中小企業があり、3千万人以上が働く。個人事業主は666万人(20年、総務省調べ)。石川は極論すればその全てを「深掘り」して、利用者との「ぴったり」なマッチングを提供したいと考えている。差し当たりの目標は、ミツモアの対象事業を600業種に増やすことだ。

 日本中の中小企業、個人事業主が集客や営業にかける時間が減れば、より本業に集中できるようになり、余暇の時間も増える。自分にぴったりのサービスが見つかれば、利用者の暮らしも豊かになる。政策ではなく事業で日本のGDPを増やす。官僚ではなく起業家になった石川の野望である。(敬称略)(文/ジャーナリスト・大西康之)

AERA 2022年3月14日号より抜粋

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