短期集中連載「起業は巡る」。第3シーズンに登場するのは、新たな技術で日本の改革を目指す若者たち。第4回は、仕事版の価格比較サイトをつくった「ミツモア」創業者で代表取締役CEOの石川彩子氏だ。AERA 2022年3月14日号の記事の2回目。
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アイデアを抱えて帰国すると、実現のために仲間探しに取りかかった。とりわけ腕の立つエンジニアがいる。16年のある日、石川はつてをたどり、メルカリの創業者、山田進太郎が主催するバーベキューパーティーに潜入した。そこには、日本のスタートアップに関わる有力な人々が大勢集まっていた。
「日本のGDPに貢献できる会社を作りたいので、一番有能な人を紹介してください」
「すごい人がいるよ」と紹介されたのが、当時、ヤフー(現Zホールディングス)のCTO(最高技術責任者)室にいた柄澤史也である。
東京大学大学院理学系研究科を修了してヤフーに入社した柄澤は、オークションサイトのヤフオク!の開発などに従事。その後、CTO室で社内横断の技術支援を担当していた。入社4年目。「そろそろ起業でもしようか」というタイミングだった。
2人は共通の知人がセットしてくれた東京・六本木の会員制バーで初めて会った。最初は一方的に石川がローカルサービスの可能性を語り、柄澤は注意深く話を聞いてきた。柄澤は石川のビジネスプランに興味を覚えた。石川が言うサービスは「世の中を良くする」と感じた。
柄澤はIT大手で働いていた知人から、業界の多重下請け構造の酷(むご)さを聞かされ、辟易(へきえき)としていた。仕事の価値が正しく評価されず、搾取が常態化している。見積もりサービスで仕事の価値を可視化できれば、下請け企業は大手以外からも仕事が受注できるようになり、悪(あ)しき商習慣を正せるかもしれない。
柄澤がもう一つ、見ていたのは石川の人柄だ。起業で大事なのは「同じ船に乗ってやっていけるかどうか」である。
コンサル出身の石川はプレゼン能力が高い。エネルギッシュで、事業を前に進める力、人を巻き込む力もあり、諦めが悪そうだ。根っからのエンジニアで人前で話すのがあまり得意ではない柄澤は「自分に足りないものを持っている」と思った。
「少し話しただけで自分と合う、合わないが分かる」という石川は、柄澤の少ない言葉の中から「やりたいことは自分と同じだ」と感じ取った。