■負担が必要という意識
インフラは「下」、運行を「上」に例え、道路と同じように線路などインフラは国や自治体が引き受け、その上を走るサービス提供は鉄道会社に委ねる仕組みだ。インフラの維持費用がなくなる分だけ、鉄道会社は運行サービスの改善に専念できる。
「国や自治体が引き受けて『税金を投じる』と言うと反対の声が上がります。しかし、例えば『図書館に税金を投じていいのか』とは誰も言いません。鉄道も同じ社会インフラである以上、社会全体で支えなければいけないと思います。公共交通への支援は、負担ではなく、将来に地域の価値を生み出す投資です」(宇都宮教授)
上下分離方式は日本でもいくつか採用例があるが、主流ではない。鉄道ジャーナリストの松本典久さんは、上下分離は利用者の意識をどこまで啓蒙(けいもう)できるかが重要になると説く。
「鉄道を支えていくには負担が必要、という意識を持てるかどうか。そして乗車によって利用していく。こうした個々の行動が重要になっていくでしょう」
一方、茨城県ひたちなか市を走る第三セクター、ひたちなか海浜鉄道の吉田千秋社長は、まだまだ企業努力で頑張れると語る。一時は廃線が取り沙汰されたこの鉄道を救った立役者だ。
「まず、鉄道が持っている付加価値です。うちで言えば、沿線には昔ながらの田舎の雰囲気が残っているのでテレビドラマやCM、映画のロケに使っていただくことで会社の収入や町の宣伝になります。車庫見学や列車の貸し切りなどを行うことでも、収入につながります」
コロナ禍で観光客は減ってきたが、昨年4月に沿線で統廃合された小中学校の児童・生徒に鉄道を利用してもらうことで輸送人員だけはカバーできているという。
「鉄道には、バスや車では果たせない役割があります。線路でいつでもつながっているインフラであり、地域活性化にもつながります」(吉田社長)
■グリーン・リカバリー
欧州では、コロナ禍と脱炭素社会の実現を目指す動きのなかで鉄道の重要性が見直されてきている。宇都宮教授は言う。