むし歯などの治療で入れたかぶせものや詰めものがある日、「ポロリ」と取れた経験はありませんか? セラミックス(白い歯)など、自費診療で入れたものであればショックも大きいはずです。ではかぶせものや詰めものが取れたのは治療の失敗のせいなのでしょうか? こうした補綴物(ほてつぶつ)には寿命はあるのでしょうか? 若林健史歯科医師に聞きました。
【糖尿病、認知症のリスクも!歯周病は大丈夫?14項目チェックリスト】
* * *
歯を削った後、歯の形態を回復させるために入れるかぶせもの(クラウン)や詰めもの(インレー)のことを補綴物と言います。
補綴物が取れてしまうのは治療の失敗ではなく、「耐用年数(寿命)が過ぎたから」が主な理由です(歯科医師の技量不足というケースも否定できませんが、ごくまれなことだと考えてください)。「冷蔵庫や洗濯機の寿命は10年」と言われますが、補綴物もだいたい同じくらいの寿命です。
歯は1回の食事で1万回以上咀嚼(そしゃく)すると言われています。通常は1日3食を取りますので3万回以上、さらに熱いものや冷たいものにさらされるという過酷な環境で働いています。
むし歯のない天然の歯でも、永久歯の生えてきた年齢以降、何十年と使うことになります。すり減ったり、薄くなったりするのは当然です。人工の材料で作る補綴物も使う年数が長くなれば取れたり、かけたり、ひびが入ったり、ということが起こってきます。
昔は補綴物の寿命はもっと短く、キャラメルを食べたり、ガムをかんだ拍子に「ポロリ」は珍しくありませんでした。補綴物の強度が弱かったこともありますが、主な理由は接着技術の問題です。
例えばかぶせものの場合、補綴物の内面の凹凸と歯の表面の凸凹を歯科用セメントによって合着させていました。しかし、セメントの強度が弱いことや唾液(だえき)溶解性があることで、使用しているうちにセメントが溶け出し、また水分を吸う性質もあるため、長持ちさせることが難しかったのです。