1990年代にオーストラリアで起きた銃乱射事件の犯人の半生を描く。3月25日公開(c) 2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited
1990年代にオーストラリアで起きた銃乱射事件の犯人の半生を描く。3月25日公開(c) 2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

きっと演じられる

「とにかく映画が好き」。そんな大きな映画愛から俳優を目指した。幼い頃に母親とともに「時計じかけのオレンジ」(1971年)を観て以来、「映画」について、そして「演技すること」について考えるようになった。

「現実にはできない表現で、映画は社会を映し出し、挑発する。“何かを訴えるアート”として映画を捉えるようになった。『演技する』ことは自分の中にあるものを引き出せるかもしれない、とも思った。実際に演技を始めると、『自分のすべてを投入できる』と感じた」

 どんな役も、「きっと演じられる。でも、どうすればいいのかわからない」という葛藤からスタートするという。ときに「こんな演技をできたのは、自分が初めてではないか」なんて、浮かれる瞬間もある。

「でも、三船敏郎やクラウス・キンスキーが出演している作品を観て、彼らの演技を目の当たりにすると、『僕よりはるか上をいっていたんだ』と、打ちのめされるわけだけれどね(笑)」

 映画の話は止まらない。

「取材の時間をとってくれてありがとう」

 凶悪な殺人犯を演じた俳優の素顔は、まっすぐで心優しい、映画好きの若者に思えた。(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2022年3月28日号