きっと演じられる
「とにかく映画が好き」。そんな大きな映画愛から俳優を目指した。幼い頃に母親とともに「時計じかけのオレンジ」(1971年)を観て以来、「映画」について、そして「演技すること」について考えるようになった。
「現実にはできない表現で、映画は社会を映し出し、挑発する。“何かを訴えるアート”として映画を捉えるようになった。『演技する』ことは自分の中にあるものを引き出せるかもしれない、とも思った。実際に演技を始めると、『自分のすべてを投入できる』と感じた」
どんな役も、「きっと演じられる。でも、どうすればいいのかわからない」という葛藤からスタートするという。ときに「こんな演技をできたのは、自分が初めてではないか」なんて、浮かれる瞬間もある。
「でも、三船敏郎やクラウス・キンスキーが出演している作品を観て、彼らの演技を目の当たりにすると、『僕よりはるか上をいっていたんだ』と、打ちのめされるわけだけれどね(笑)」
映画の話は止まらない。
「取材の時間をとってくれてありがとう」
凶悪な殺人犯を演じた俳優の素顔は、まっすぐで心優しい、映画好きの若者に思えた。(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2022年3月28日号