1990年代にオーストラリアで起きた銃乱射事件の犯人の半生を描く映画「ニトラム/NITRAM」で無差別銃乱射事件の犯人を演じ、カンヌ主演男優賞を受賞したケイレブ・ランドリー・ジョーンズが映画について語った。AERA 2022年3月28日号から。
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「ゲット・アウト」「スリー・ビルボード」(ともに2017年)、「デッド・ドント・ダイ」(19年)といった話題作に出演し、主演でなくても深い余韻を残す。ケイレブ・ランドリー・ジョーンズは、“若き名脇役”と言える存在だった。そんな彼が2021年のカンヌ国際映画祭で、主演男優賞を受賞、トップ俳優の仲間入りを果たした。
主演作「ニトラム/NITRAM」で演じたのは、オーストラリア史上最悪と言われる無差別銃乱射事件の犯人であるマーティン・ブライアントだ。「NITRAM」は、「マーティン」を逆さ読みしたもの。ケイレブ自身、出演依頼が届いても、脚本を開くまでは「絶対にやりたくない」という気持ちがあったという。
苛立ちと深い孤独
「監督は、『スノータウン』で残虐な事件を描いていたジャスティン・カーゼルだったし、暴力的な物語を観客に見せるなんて、ひどいアイデアだと思っていた。けれど、僕のエージェントが『この脚本は絶対に読むべき』とすすめてくれたんだ」
ページをめくっていくと、そんな想像は良い意味で裏切られた。「ニトラム/NITRAM」で描かれるのは、凶悪な事件そのものではなく、そこに至るまでのマーティンの心の動き、そして両親や周囲の人々との壊れそうなほど繊細な関係だ。母親は、周囲に馴染めないマーティンを、できるだけ普通の少年として育てようとする。一方で、父親はできる限り手をかけて育てることこそが愛情だと信じている。そんな両親と距離を置き、マーティンは年上の富豪の女性と暮らすようになるが、やがて二人の関係も終わる。同世代の男性に抱く劣等感、苛立ち、深い孤独。凶行に駆り立てるまでに、社会は彼を止めることができなかったのか。そんな大きな問いを投げかける。
「いまは、脚本家と監督が僕に声を掛けてくれたことに感謝している」とケイレブは言う。
「分別がありつつも、ときに厳しく、(根底にあるテーマから)決して逃げることなく書かれた脚本だと感じたんだ」