ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻が続いている。キエフ北西部、破壊された橋/2022年3月4日(写真:gettyimages)
ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻が続いている。キエフ北西部、破壊された橋/2022年3月4日(写真:gettyimages)

■中立化で歩み寄る余地

東郷:1945年8月にソ連が対日参戦し、広島・長崎に原爆を落とされてポツダム宣言を受諾することを決めたとき、日本はひとつ条件を出しました。国体の護持、つまり天皇の統治大権を守るという条件です。それに対するいわゆる「バーンズ回答」では、「将来の日本の政体は日本国民が自由に表明する意思のもとに決定される」とされました。日本は激論の末にそれを受け入れて終戦を迎えます。皇室と国民の関係は敬愛で結ばれており、「日本国民が自由に表明する意思」ならば国体は守られると考えたからです。

 アメリカの知日派による精緻な日本分析があったからこそ、曖昧ながらも日本の和平派がのめる回答がなされたのです。もし、「天皇制は廃止する」という回答だったなら、日本はポツダム宣言を受諾せず、いま私たちはいなかったかもしれません。

 今回の戦争でこれができるのか、そこが最大の課題です。この戦争は、双方にとってやめることが利益になる。そこに可能性があります。ウクライナにとってはもちろん、プーチンにとっても停戦は絶対に必要です。スラブの弟分のウクライナ人殺しは、プーチンの根本思想上、絶対に許されません。また、棺に入れられ帰るロシア兵が増えてくることは、プーチンの足元を揺るがすと私は考えます。

手嶋:アーリントン国立墓地にアメリカ兵の遺体が星条旗に包まれて無言の帰国を果たす。これが指導者にどれほどの衝撃を与え、政治決断に影響を及ぼしたか、私も目の当たりにしてきました。アフガン戦争やイラク戦争で亡くなった兵士の棺に付き添う小さな子どもや奥さんの表情はいまも瞼に焼き付いています。いまプーチンはその立場に追い込まれています。非武装化の条件を緩めても中立化で歩み寄る余地があると思います。

(次週に続く)(構成/編集部・川口穣)

AERA 2022年3月28日号より抜粋

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