ロシアによるウクライナ侵攻で、民間人を巻き込む無差別な攻撃が続いている。これから何が起ころうとしているのか。止めるための方策は。AERA 2022年3月28日号で、元外務省欧亜局長の東郷和彦さんと、外交ジャーナリストの手嶋龍一さんが語った。
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東郷:この戦争は止めなければなりません。ロシアは首都キエフと東の最大都市ハリコフ、クリミア半島とドネツクやルガンスクがあるドンバス地方を結ぶ戦略的な要諦を攻撃の中心にすえています。そしてここまで、人道回廊を設置して女性や子ども、非戦闘員の脱出を求めていました。すると、残った人は戦闘員とみなされる。攻撃をためらう理由がなくなり、その先にあるのは殲滅(せんめつ)です。建物をすべて壊し、残っている人を殺す。
報道では、キエフにはいまだ200万人が残っているとされています。戦争が停止されない限り、ここに総攻撃を仕掛け、女性や子どもを含む200万人を殺すという事態が起きかねない。これを何としてもやめさせる、その1点に絞って世界中が叡智を結集させるべきです。
手嶋:ロシアが化学兵器を使えば、さしものバイデン政権も軍事的な報復に出ると示唆しています。通常兵器であれ、大量破壊兵器であれ、プーチンはいま無差別大量攻撃に手を染めているのです。攻撃を軍事施設に限定するという建前をかなぐり捨て、子どもたちまで大量無差別攻撃の対象にしている。東京大空襲と広島・長崎への原爆投下は、大量無差別爆撃という点では同質なのです。かかる不正義を世界の国々は決して容認してはなりません。
東郷:私もそう思います。ただし、1度始まった戦争を止めるのは非常に難しい。唯一の方法は、絶対に譲ることのできない部分をお互いに与えるしかない。どうしても守らなければならない部分は放棄しないから、その折り合いをつける知恵が出せるかにかかっています。それこそが外交です。武器の供与、経済制裁、国際世論の批判、という視点よりも、外交に特化して考える。プーチンの最低限の要求は何か。ゼレンスキーが何としても守りたいものは何か。
今回、ロシアが絶対に譲れないと言っているのがウクライナの「中立化」と「非武装化」でしょう。そしてウクライナの側はウクライナ国家の統一性の維持ではないかと思います。
手嶋:太平洋戦争の末期、日本にとって最後の一線は「国体護持」でした。東郷さんの祖父の茂徳外相は終戦工作の中心にいたのですが、なぜあの時、太平洋戦争を終わらせられたか。ウクライナ戦争にも重要なヒントを提供しているはずです。