ベンチャー社長から源頼朝の妾まで、あらゆる役どころを自在に演じる、俳優の江口のりこさん。次に控える舞台「お勢、断行」や、ブレークした心境など、作家・林真理子さんに話してくれました。
* * *
林:はじめまして……。あ、やっぱり背が高い。
江口:はい。170センチです。
林:「江口さんにお目にかかる」と言ったら、周りから「いいなあ」って言われましたよ。特に女性の人気がすごいですね。社会人のうちの娘も、「あした江口さんにお会いするんだ」と言ったら、「えっ、すごいじゃん」って。
江口:へぇ~、うれしいな。
林:5月のゴールデンウィーク明けから始まる「お勢、断行」というお芝居(5月11~24日・世田谷パブリックシアター、28日~6月19日・兵庫、愛知、長野、福岡、島根)、コロナで上演が2年延期になってたんですね。
江口:そうなんです。あしたゲネプロ(本番と同じ衣装、舞台で行う通し稽古)という日に、お風呂に入ってたら電話が鳴って、「あ、中止だな」とすぐわかったんですよ。電話はマネジャーさんからで、「東京公演、地方公演、全部中止になりました。ただ、あしたのゲネプロは予定どおり行うとのことです」と言われたので、実は舞台上でちゃんとしたセットで一回やったんです。だから私としては、もう終わった公演という感じもあるんです(笑)。
林:そんなこと言わないでくださいよ。2年ぶりの稽古ですが、セリフは覚えてるものですか。
江口:セリフはひと言も覚えてないですねえ。
林:森光子さんに何度かこの欄に出ていただきましたけど、「放浪記」のセリフ、あれだけ何回やっても全部忘れてて、「ただいま」という最初のセリフしか覚えてないとおっしゃって。俳優さんってそういうものなんですか。
江口:忘れていきますね。しつこく繰り返したセリフは、ワンフレーズ言えばススッと出てくることもあるんですけど、この「お勢、断行」に関しては全部忘れてますね。また一からです。