「私は平日、複数の病院で勤務し、週末は首都ブラチスラバの外国人警察署で入国するウクライナの人たちを診察しています。やってくるのは女性や子どもばかり。特に子どもたちは疲れて無口になっています」
ゼンバリーさんはあるスタッフの話をした。
「子どもたちに少しでも元気になってほしくて、救急車のおもちゃをプレゼントしました。でも、後でお母さんが『この子のじゃないから』と返そうとしたんです」
遠慮しているのだ、と思った。
そこで、スタッフ間で話し合い、決めたことがある。
「ウクライナから来た人たちを『難民』と呼んでレッテルを貼らないようにしました。歓迎する空気感を大切にしています」
医療用のゴム手袋を膨らませて風船にして、ニコニコした顔を描いた。
「すると、子どもたちは風船で遊んで走り回ってくれました。施設にピエロが来たときも喜んでくれました」
積極的に声をかけるのは、少しでも安心してほしいから。命と心を守りたいからだ。(編集部・井上有紀子)
※AERA 2022年4月11日号より抜粋