自分のやりたいことを理解し、それを相手に伝える──。「決める力」は人生において重要だ。 その力を健全に育むには、 言葉がけから留意すべきことがあるという。AERA 2022年4月11日号は「話し方」特集。
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話し方は、子育てにおいても重要だ。親がどんな言葉でどう話しかけるかは、子どもの成長に大きく関係する。
岡山県の小学5年生の男児は、自分から積極的に発信することが苦手だった。引っ込み思案でクラスでも目立たず、運動会や学芸会などの行事にも消極的。だが、家庭は教育熱心で、複数の習いごとに忙しく通っていた。
──自分の言いたいことを、言えているのだろうか。
男児を気にかけていた担任は、母親との面談で学校での彼の様子を伝え、こう切り出した。
「お母さんの考えや思いを伝える時は、どんなに小さなことでも必ず最後に、『あなたはどう思う?』と聞いてあげてくれませんか。なるべく彼の意思を尊重してあげてください。それできっと変わるはずです」
何事にも遠慮がちなのは気質だから仕方ない。そう思っていた母親は、半信半疑でその日から実践してみることにした。
「今日の晩御飯、肉じゃがにしようと思うんだけど、あなたはどう思う?」
すると男児の表情が一変した。
「あんなに驚いた息子の顔を見たのは久しぶりでした。その時に気づいたんです。あの子の意見を聞くなんて、もう何年もしていなかったなあって」(母親)
■応援団に立候補する
2カ月経つと、大きな変化が表れた。習いごとも「ためになるから」と母親が選んだものだったが、「水泳はもっとやりたいけど、ダンスとそろばんはやめたい」と自ら申し出たのだ。
学校での生活態度も変わった。授業中に発言するようになったことに加え、応援団に興味を持ち、運動会に向けて立候補するという。
男児の変化を、岡山大学准教授で『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』著者の中山芳一さんはこう分析する。
「『どう思う?』と付け加えたことで母親の言葉が“指示”ではなく“提案”に変わりました。『あなたが決めていいんだよ』というメッセージを送り続けたことにより、意欲や向上心が引き出され、“決める力”が育ったんです」
「決める力」は人間にとって重要だ。ものごとを把握し、自分がどうしたいか理解し、それを相手に伝える。自我の基本になるものだ。その力はどう伸ばせばいいのだろうか。
「決める力には、非認知能力、思考系能力、認知能力のすべてが関係します」(中山さん)