──女性陣だけでなくカツオ君も古くさい男ではないです。お手伝いはよくするし、お年寄りや女性にやさしい。

 私、カツオ君こそ「21世紀の男」だと思っているんです。特筆すべきは、地域の人たちとの調整能力ですよね。地域のおじさん、おばさんとサザエさんたちの世代の間に入って、みんなを取り持つ。現代の町内会にこんな男の子がいたら大助かりですよ。彼は地域社会のメッセンジャーかつコーディネーターになっている。職場と家庭を行ったり来たりするだけの夫ではなく、地域社会に貢献する術を身につけている。姉のサザエさんにしょっちゅうおつかいやら子守を頼まれて、家事にも貢献している。学校の成績表は「3」「2」「1」ばかりで決して成績優秀とはいえないのだけど(笑)。

──カツオ君みたいな男の子は、絶対にモテますよね。作中ではよく女の子にふられていますが。

 そうそう。カツオの才能をとてもよく表した回があるの。小学校5年のカツオは修学旅行に行く。当時、高度成長期で修学旅行が花盛りで、複数の学校が一つの旅館で一緒になるから大混乱している。そこにカツオが出ていって、「この御膳はこちらの席」とか、混乱している状況を見事に采配する。たちまちその場がきれいに回りだす。それをじーっと見ていた旅館の主人が、磯野家について来て「誠によくできた息子さんで。ぜひうちの旅館の婿に」と。見る人が見れば、立派に成長している姿が随所に描かれています。21世紀的な視点で見てこそわかるカツオ君の類いまれな性質を、今こそ評価してほしい。ああいう男が日本の夫に増えてくれれば、世界で育児参加時間がもっとも少ない日本の夫、私がネーミングした「意気地(育児)なし」(笑)は、減ってくる。

◆老いの理想像を示すあのキャラ

──樋口さんの昨年の著書『老いの福袋』がベストセラーになっています。「恨みつらみは『棚上げ』方式で」「ユーモアは老いの味方です」など、「老い」を前向きにとらえる提言が紹介されています。サザエさんの世界と共通するアドバイスが多いように感じました。

 そうかもしれませんね。私も昔、都知事選に出馬したきっかけだとか、許せないと思う人がけっこういたんだけど(笑)、恨んだって時間の無駄ですからね。私ね、同じ作者の「いじわるばあさん」にこそ、老人たちが活き活き生きるヒントがあると思っているんです。

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