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「サザエさん」や「いじわるばあさん」を生み出した漫画家・長谷川町子が亡くなって今年で30年になる。今も色あせない長谷川町子が描く「昭和」の世界の魅力を、ベストセラー『老いの福袋』の著者であり、評論家の樋口恵子さんに聞いた。

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──樋口さんは人生のベスト書籍に、長谷川町子の「サザエさん」を挙げています。

 私が「サザエさん」を面白いと言いだしたのは、60年安保の頃です。当時わりと進歩的な女性、主婦を中心とする会に呼ばれたとき、「サザエさんは面白い。ただの新聞連載漫画と思っちゃいけない。現代の、女性の視点からの鋭い指摘はあるし、社会的平等まではいかないけれど、家族内での平等においては瞠目すべきである」と言ったら、聴衆の女性から「樋口先生はもっと進歩的な方だと思っていた。あんな小市民的な家庭の幸せで満足している。もっと平和運動などやらなきゃいけない」って言われちゃって。

──「サザエさん」の世界は描かれた時代にしては男尊女卑的な雰囲気がなく、女性も強く活き活き描かれていますね。

 その通りです。それまでの新聞漫画っていうと、造形から男は大きく、女は小さく描かれていました。でも波平さんもフネさんもほとんど同じ大きさ。ものによっては本当に平等、差があってもほんのわずか。画期的です。

──サザエさんもフネさんも専業主婦ですが、家に閉じ込められているとか、そんな感じは微塵(みじん)もありません。

 そうなの。一切虐げられてない。昔、私は農村の若い主婦の集まりによく呼ばれていたので、農家の嫁がいかに息をひそめて、身を小さくして暮らしているか、わりと知っていました。彼女らと同世代のサザエさんは何も失っていない。結婚前も後も同じ地域に住んでいて、ごく普通の場面として見逃されがちですけど、隣組の集まりなんかあるとサザエさんがカチカチと「集まってくださ~い」と声をかけて回る。でも、当時、農家の嫁はあんなことできなかったですよ。出しゃばるな、仕切るなって言われるから。サザエさんは地域にお友達もいるし、結婚して専業主婦になったけど、自由にお買い物やお茶しに出掛けられる。地方の嫁にとって、そんなサザエさんは憧れでした。私は「同時代女性のメルヘンがサザエさんだった」と書いたことがあります。

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