「松尾(スズキ)さんが演出する舞台はいちばん自分が出せる」と語る阿部さん
「松尾(スズキ)さんが演出する舞台はいちばん自分が出せる」と語る阿部さん

――そう言えば阿部さん、舞台の本番に遅刻して、松尾さんにめちゃくちゃ怒られたこともあるそうですね。

阿部:それはもっと前ですけどね。最初の頃は、なぜか遅刻してもいいと思ってたんです。ほら、たけしさん(北野武)がテレビの本番に遅刻してたのとかを観て、そういうのってカッコいいなって。でも、実際に遅刻したら、すごく怒られて。怒られるなんて思ってなかったから、ビックリしました。松尾さんや、大人計画の社長の長坂まき子さんもそうだけど、本気で怒ってくれる人がいたのはありがたかったですね。

■わからないことはわからないままでいい

――役者としてやっていこうと本気になったのは何歳くらいなんですか?

阿部:28歳で結婚した頃かな。周りの人たちにも「結婚したんだから、しっかりしないと」と言われて、「そうだね。じゃあがんばります」と。芝居への取り組み方も変わってきたと思います。たとえば、台本をちゃんと読むとか。「そんなこと?」と思われるかもしれないけど、それまでは松尾さんの台本を読んでも、何のことかわからなかったんですよ。当時の台本は手書きだったんですけど、松尾さんのちょっと不思議な字を読みながら、「ぜんぜんわかんないな」って。本番でお客さんが笑っていても、「何で笑ってるんだろう」という感じでした。でも、そのうちに「わからなくてもいいか」と思うようになって。

――わからないことはわかないままでいい、と?

阿部:そう。わからないことなんて、いっぱいあるじゃないですか。たとえば自分が出た舞台や映画の感想を読んで、「へー、こんな考え方があるんだ?」と思ったり。お客さんが自由に想像してくれていいし、松尾さんの台本の解釈も人それぞれでいいのかなと。あと、自分の年齢も関係あるかもしれないです。確か「ニンゲン御破算」の再演のときだったと思うけど、「この台本を書いたときの松尾さん、自分の今の年齢より下だったんだな」と気付いて。その頃から、なぜか台本を読むのが楽しくなってきたんですよ。「ドライブイン カリフォルニア」は初演が96年だから、台本を書いたのは30代前半でしょ。その年齢であんなことを考えたって、すごいなって。宮藤さんに対してもそう。「I.W.G.P.」(ドラマ「池袋ウエストゲートパーク」/2000年)を書いた頃の宮藤さん、30歳くらいだから。

――たしかに。特に松尾さんの作品はシュールだし、喜劇と悲劇が反転し続けるような不思議さがあって、いろいろな解釈ができますからね。「ドライブイン カリフォルニア」で阿部さんが演じる“アキオ”も、捉えどころがないキャラクターですよね。

阿部:そうなんですよ。松尾さんの台本を読むと、「この人、どういう育ち方をしたんだろう?」と思います(笑)。よっぽど不思議な人に囲まれてたのか……。あ、だから大人計画にも面白い人が集まってるんですかね。役者は全員、松尾さんがオーディションで採用してるから。“理解できないけど、面白い”って人が多いし、もっと知りたいような、知りたくないような、不思議な距離感でここまできてます。

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