タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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このほど、2年2カ月ぶりにオーストラリア・パースで暮らす家族の元に帰ってきました。短い期間ですが、久々の一家団欒(だんらん)です。背が伸びて青年らしくなった大学2年と高校2年の息子たち。夫も元気そうで、ホッとしました。
家族が暮らす古い借家は平家造り。ちょっとした家事をするにも家の中を歩き回らねばならず、東京の30平米あまりのワンルームで2年以上を過ごしていた身には、これがありがたい限りです。
東京では、仕事をしているデスクから最も遠いトイレまで歩いたって、20歩もありません。洗濯や皿洗いはデスクから5歩以内の移動で済むし、1人分だからすぐに終わります。ところがパースの家では、デスク代わりのダイニングテーブルからキッチンの向こうの洗濯機置き場まで行き、洗い終えた中身を乾燥機に移して、戻る途中で流しの鍋を洗い、食洗機に皿を入れ、家中のゴミを集めて庭のゴミ箱まで捨てに行き、枯れ葉を拾ってバラに水をやり、リビングのソファに積み上がった洗濯物を畳み、家族それぞれの部屋に運び……とエンドレスです。いつも私が日本にいる間に家族3人分の家事をこなしている夫の大変さを思うと同時に、これまで無意識にやっていて気づかなかったけど、家事がいかに健康に役立っているかを実感しました。買い物も倉庫のようなスーパーで重いカートを押しながら、それなりの距離を歩きますし。
東京での運動不足を解消しようと、パースでは毎日夕方に近くのビーチまで行き、夫と波打ち際をてくてく往復しています。近所だと意外と行かないんだよねと夫もうれしそう。浜で砂団子を作っていた息子たちの思い出を語り合いながら、お互いに健康に老いることを考える年になりました。2年は長かったけど、人生がすぎるのは早いもの。パース名物の夕日が沁みる年頃です。
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中
※AERA 2022年4月18日号