世は藤井聡太ブーム。最年少五冠を達成し、ますます注目を集めている。そもそも天才の頭脳に影響を与えた幼少期の教育とはどのようなものだったのか。カギとなるのは、子どもが目標を達成する「実行機能」だ。京都大・森口佑介准教授(発達心理学)が解説する。
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藤井聡太さんの幼少期のエピソードでよく引き合いに出されるのが、モンテッソーリ教育。「非認知能力」を伸ばすのに良いといわれています。
私が非認知能力の中で特に注目しているのが、自分の欲求や考えをコントロールする「実行機能」です。「目標を達成する力」と言い換えてもいい。
最近、興味深い研究報告がいくつかあります。
発達心理学の分野では、「実行機能」が子どものときに高いと、学力や社会性が高くなり、大人になったときに経済的に成功したり、健康状態を良好に保てたりする可能性が高いといわれています。知能指数(IQ)よりも「実行機能」が高いことの方が、子どもの将来に影響を与える可能性がある、といった報告もあります。
実行機能、すなわち「目標を達成する力」という側面から考えると、最も大切なのは、人に与えられた目標を達成するのではなく、「自分で作った目標」を達成するような環境を整えることです。モンテッソーリ教育でも、自分を教育する「自己教育力」を高めることを目標にしているそうです。
たとえば、教具を使って、それをひたすら積んでいく、という課題があったとしましょう。たとえ崩れそうになっても、基本的に先生たちは、ほとんど手出しをしません。あくまでも「子どもたちが自分で達成しなさい」と見守るところにポイントがあるわけです。ただ、どうしてもダメそうだったら、先生はちょっと手伝う。頑張る必要はあるけれど、子ども自身でなんとかできそうだというゴールを見極めてあげるのも、見守る大人の役割であり、教育者、あるいは養育者にとって大事なのは、子どもが自分で取り組むところを「後押しする」という姿勢なのです。