(撮影/写真映像部・松永卓也)

◆あえて合同会社 利益は社員に

 東風の各人に共通していることだが「自分が決めた」という判断は彼らの揺るぎなさになっているようだ。東風の配給作品には、ほかにも昨年公開された、入管行政に踏み込んだ『東京クルド』や、沖縄の基地問題をとりあげた『標的の村』など「社会派」色のあるものが多い。

 しかし木下は、作品選びにおいて「社会的な意義」の優先度は低い。「第一に映画としての面白さ」をあげた。『主戦場』も東風の誰もが「ヤバイ(難しい)」と思ったが、「映画として面白いと思った。そして、やれない理由がない以上、どうしたら上映可能かを考えていくのが自分たちの仕事」という。

 2月の平日。新宿の雑居ビルにある東風の事務所を訪ねた。入ってすぐが応接室。その奥に、楕円(だえん)状に机が配置された部屋がある。室内でもいつもジャンパーを着込んでいるという代表の木下の机も、他のスタッフのものと変わらない。

 集合写真を撮る。カメラを見上げながら木下が「うちはずっとニッチなところでやってきたから、大きくとりあげてもらうのは」と口をもごもごさせる。天井近くの壁に商売繁盛の手が飾ってある。縁起物の飾りがたくさんついた大きなものだ。

「だんだんと大きくしていかないといけないから、最初をどれくらいの大きさにするのかがむずかしいんですよね」と向坪。09年の設立以来、新宿・花園神社の「酉(とり)の市」には毎年社員みんなで出かけるという。

 ドキュメンタリーを専門とする映画配給会社は限られている。「儲(もう)かりそうにない」のが理由だが、木下が株式会社ではなくあえて「合同会社」として出発したのは、利益は社員に還元したいという思いがあったからだという。資本金は木下が長崎県諫早市の漁師だった父親に頭を下げて借りた100万円をあてた。順風ばかりではなかったが、幸い赤字を出さずに経営を続けてきている。

「経営面でいうと、製作にはかかわらず、配給宣伝に絞ってきたことがよかった」と木下が説明する。近年「製作委員会」方式で出資を募るケースが増えているが、当然製作はリターンとともにリスクを負うことになる。

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