(撮影/写真映像部・松永卓也)
(撮影/写真映像部・松永卓也)

 渡辺は部活の先輩から洋画の配給会社のアルバイトを紹介され「配給」という職種があることを知ったという。ゴダールなどを見まくっていた彼は当時「こんなにも映画に無理解な人たちが現場を仕切っているのか」と失望したという。

 その後、別の映画関連会社で木下と出会い、抱えていた作品の上映見通しが立たなくなり独立して配給の道を探そうとしていた木下と行動を共にした。大学を卒業してから10年ちかく非正規で働いてきた渡辺にとって初めての「就職」になる。

 長年、木下を傍(そば)で見てきた渡辺はこう言う。「何かあったときに責任をとってくれる」。会社の数字がオープンなこと、社内で意見が割れたときに歩み寄るのも木下だと。

 それは、木下は会社のトップにしては珍しい、エゴが薄いからなのか。「たぶん<我>の位置が違うんでしょうね。だけど、まれに曲げないことがあるんですよ」

 渡辺が例にあげたのが、『犬とと人間と』という殺処分に関するドキュメンタリーで、会社設立間もない頃だ。木下ひとりが粘り腰で他を説得した。結果、続編が作られるほど興行的にも成功した。木下も渡辺も「合議制」はときに時間を要するが、「自分が決めたことだから」とモチベーションを高める効果があるという。

◆きまじめさ第一 会社のカラー

 机が詰まった一室。木下を含め常に全員が顔を合わせていることから、自然と互いの進捗(しんちょく)がわかるのがメリットらしい。年間の配給作は5~8本。「助けたり、助けられたり」で自分はやってこられたと言うのは、渡辺とともに設立時からの社員の向坪だ。機転が利き、仕事の手際が速いが朝が弱い。「よその会社だとたぶん無理」という。勤務はフレックス制で、ちなみに設立から現在までタイムカードの機械は置いていない。

 そういえば彼らの名刺には代表の木下以外、「肩書」がない。ひとつの作品を全員で担当するのが東風の仕方で、他社で見られるチーム分けや「チーフ」を置かないでやってきた。仕事を抱え込み過重労働となることをなくそうとする考えが根底にあるようだ。

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