(撮影/写真映像部・松永卓也)
(撮影/写真映像部・松永卓也)

「うちは全員がヒラなんです」と向坪が言い、渡辺は百姓一揆の「傘(からかさ)連判状」にたとえ、働き方をこう説明する。「円状に名前を書いていくことで、誰が首謀者なのかわからなくなる。それと同じ」。木下を含め上下関係はない。

 さらにいうと「成果主義」をとらず、夫々(それぞれ)が得意なことを率先してやる。作品がヒットした際の利益分配(賞与)は勤続年数に関わらず社員一律に還元している。

 東風にたどり着くまでの経歴は各人様々だが、共通しているのは「就職活動」を経験せずに来た。ただひとり、一昨年の新卒入社の早坂苑子(25歳)を除いては。早稲田大学を卒業し20年に入社した早坂は、配給作品の過去のラインアップを見て「イデオロギーのつよい作品を重視しているのかなあ」と思ったが、今年公開の『テレビで会えない芸人』など、「笑いが好きなひとたちなんだというのが意外でした」という。

 寡黙な早坂は宣伝スタッフというと「口達者」というこちらの先入観からすると、事務所でインタビューした際に控えめすぎる印象を受けた。きけば、木下をはじめ全員が面接に立ち会い、即決だったという。

 4人の会社を5人にする際の「ひとり」を決める選択に、少なからず会社のありようが表れるものだ。判断ポイントを尋ねると、夫々「きまじめな性格」をあげた。つまり、きまじめさを第一に置くのが「東風」という会社ということなのだろう。

 木下が言う。「彼女は渡辺たちとは異なり、就活をやってきたひと。だから(面接で)ハッタリみたいなことを求められるというのはわかっていたと思うんです。だけど、それがまったくなかった。そこはある意味、彼女のヘンなところで。このひとと一緒に働きたいと思いました」

 雇用の問題でいうと、スタッフへのトップのパワハラが問われた「アップリンク」の労働問題をどう見ているのか。同業他社が沈黙する中で、いち早く東風は、一連の問題が解決するまではアップリンクが運営する劇場に作品を提供しないことを表明している。

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