(撮影/写真映像部・松永卓也)

 木下が「ニッチ」というのは、東風が扱うドキュメンタリー映画の多くは小規模予算のものが多く、よそが目を向けてこなかったことが背景にある。東風は完成した作品の「配給宣伝」に出資するぶん、負担が限定される。いっぽう製作で手いっぱいの監督たちにとっても、ノウハウを培ってきた東風に委託するメリットがある。

 弱小が互いを尊重し補い合う構図だ。

「もうひとつ。劇場だけでなく、作品によって自主上映への貸し出しがあるんです。経営的にはこれが支えになってきた。ただ、いまはコロナで苦しくなっています」

 そう話す木下の仕事は劇場との交渉と経理が中心で、宣伝などの表方は4人の社員が担っている。映画学校で勉強をしていた頃の彼は製作志望。監督や製作に比べると、配給は地味な職種だ。宣伝もマスコミ向けの試写状、ポスター、チラシ、プレスリリースの作成などジミな作業が多い。

「やりがいですか? この映画は自分たちの手で公開したい。そう思う作品と出会える。当たる当たらないにかかわらず。たとえば東海テレビの作品だと『ホームレス理事長』と『長良川ド根性』の2本は、お客さんが入るとはなかなか思えなかった。でも、バツグンに面白かったんです。だからお客さんが入っていると聞くとうれしいんです」

 劇場営業の仕事で必要なことは何か? 木下は「信頼関係」をあげた。

「入らない作品も当然あるんですけど、東風の作品だからやりましょうと思ってもらえるような関係性をつくっていくことでしょうか。だから、入らなかったときは、今回はごめんなさい、つぎ頑張りますからと。まあ、年に1、2本、ヒット作品が出たら会社としては回っていくと思うので」

 渡辺祐一(43歳)は「やりたいことをやるというよりも、やりたくないことをしないですむにはどうしたらいいのか」と逆方向から考えつづけ、いまの会社形態にたどり着いたと語る。中央大学で哲学を専攻。自身を「ロスジェネ世代の最後のほう」という。映画研究会に属し8ミリフィルムで劇映画を撮っていた。情緒的な木下とは対照的な理論家だ。

次のページ