アニサキスとは、サバ、アジ、サンマ、カツオなどの魚介類に寄生する寄生虫(線虫)です。ヒトは、アニサキスが寄生した生または加熱が不十分な業界類を食べることによって感染します。

 これまで、アニサキス症はスペインや日本など、生の魚や調理が不十分な魚が伝統的に消費されている国に住む人々に限定されていました。2010年以前に報告された約2万件のアニサキス症うち、なんと90%以上が日本からの報告であったといいます。しかしながら、近年は世界中の多くの国からアニサキス症に関する症例が報告されています。アニサキス症を発症する人口も増加傾向にありますが、改善された輸送システムや国際市場の拡大と生魚の消費の増加、人口の移動などがそれらの要因として考えられています。

 驚くべきことに、ワシントン大学は、1978年から2015年の調査期間中にアニサキス類は283倍に増加していたことを報告しています。アニサキスが大量に発生した要因として、気候変動、肥料や流出水による栄養分の増加、同時期の海洋哺乳類の増加などが考えられていますが、実態は不明です。

 蕁麻疹は、肥満細胞や好塩基球からヒスタミンなど炎症を引き起こす物質が放出されることにより引き起こされるアレルギー反応です。皮膚の一部が突赤くくっきりと盛り上がる膨疹と呼ばれる皮膚症状が特徴です。感染症、薬剤、食物、心因性因子、アレルゲンなど、多くの因子が病蕁麻疹を引き起こす要因となることが知られています。

 ワクチンの接種が要因となり、蕁麻疹が引き起こされることも報告があります。ワクチンに含まれるチメロサールやアルミニウムなどのアジュバンド、ホルムアルデヒド、抗生物質、ポリエチレングリコールなど、複数の添加剤が関与していることが指摘されています。世界で大規模接種が進む中で、新型コロナウイルスワクチン接種後に生じた皮膚症状の一つとしての蕁麻疹もすでに報告されています。

 アニサキスによるアレルギー反応については、1990年、日本から初めて報告されました。アニサキスによる症状は、蕁麻疹、胃腸症状(嘔吐、下痢、腹痛など)、アナフィラキシーショック、呼吸停止など、さまざまです。生ではなくしっかり調理されたアニサキス汚染魚を食べた後でも、アレルギー症状がみられたことも報告されていますが、全て解明されている訳ではありません。世界中から報告がなされるようになっている今、アニサキス症はホットトピックの一つと言えるでしょう。

 アニサキス症の場合、胃の内視鏡を施行し、胃内にいるアニサキスを摘出しないといけません。つまり、アニサキス症によるアレルギー反応と蕁麻疹では対処法が異なるということです。どうしても、ワクチン接種後に生じた症状は「副反応ではないだろうか」と考えがちです。Bさんのケースは、ワクチン以外の他の要因であるのではないかと考えながら問診することが大切だという学びを、改めて私に教えてくれたのでした。

 気候変動によりアニサキスが増加している可能性も指摘されているアニサキス症。これからは、より気をつけて診療に励みたいと思います。

 山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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