当時、ロシアは困難な時代を迎え、国内の治安は悪化し、生活レベルは劇的に落ちます。プーチン氏の中には、西側諸国が上から目線で弱ったロシアを二流国扱いし、政治的発言権も認めないなど、ロシアが冷戦の敗者として扱われているという不満の蓄積があり、反リベラリズムを強固にしていったのではないでしょうか。
そうした中、いま注目されているのが、アレクサンドル・ドゥーギン氏という右派の思想家が提唱する「ネオ・ユーラシア主義」と呼ばれる思想です。「ユーラシア帝国の建設と反米同盟の形成」「ウクライナの解体」などを主張しており、クレムリンもこの思想の影響を受け、ドゥーギン氏が描いたシナリオに従っているなどと言われます。しかし、ドゥーギン氏の後援者と見なされるレオニード・イワショフ退役大将が1月、プーチン氏の辞任を求める異例の政権批判を行いました。そうした点から、私はドゥーギン氏がウクライナ侵攻に直接影響を及ぼしていると考えることに懐疑的です。
ロシアの侵攻を正当化できる要素は全くありません。しかし、停戦後にロシアを排除し孤立させれば、再び別の修正主義を生むことになり危険です。どこまでロシアを包摂した枠組みを作れるかがポイントになります。
同時に、ロシアにとって軍事侵攻をするほどの脅威とは何だったのか、それを明らかにしていく作業が重要になっていくと思います。
(編集部・野村昌二)
※AERA 2022年4月25日号