「みんな隠れて通院していました。知られてしまうと怒られるからです。毎日が地獄のようだったと思います」
心を病んで退部した上級生に一緒に声をあげようと説得を試みたが、その生徒は首を横に振った。
「(顧問の)先生が悪いわけではありません。私が弱かったんです」
■体罰件数は減少しているが、相談は5年で10倍に増えた
データの上では部活の暴力は減っている。2012年に大阪市立高校のバスケットボール部員だった男子生徒(当時17)が当時の顧問から受けた暴力やパワーハラスメントを苦に自死した。その年度の文部科学省による全国調査「体罰の状況(国公私立合計)」をみると、小中高など国公私立の学校における体罰発生件数は6721件だった。13年に全国高等学校体育連盟など多くの団体が「暴力行為根絶宣言」を採択して以来、年々減少し20年度は485件。一見すると大幅な改善に映る。
とはいえ、日本スポーツ協会の「暴力行為等相談窓口」に寄せられた相談は14年度の23件から、コロナ前の19年度は251件と、5年で10倍に増えている。窓口の存在が周知されたことも増加要因ではあるものの、暴力やパワハラに対する意識は容易に改善しない。
前述の男性も、相談窓口に娘が被ったパワハラを訴えようとしたが、ほかの保護者から「いまパワハラだと訴えれば子どもたちの活動や進学先はどうなるのか。そもそも学校側が問題にするとは思えない」などと反対された。男性はこう後悔をにじませる。
「練習見学の感触だけで入学を決めてしまった。公立なら駆け込む先として教育委員会があったのに……」
(スポーツライター・島沢優子)
※AERA 2022年8月1日号より抜粋