今春、強豪の秀岳館高校サッカー部のコーチの暴行問題が騒動となったが、健全な心身を育成するはずの部活動で、暴力や暴言で心を病む子どもがいる。いまもなお、部活動に暴力や暴言がはびこっている。AERA 2022年8月1日号の記事から。(前後編の前編)
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熊本県にある私立秀岳館高校サッカー部でコーチが部員に暴行した動画がSNSで拡散され、騒動になった。今年4月から5月にかけてのことだ。入学前の練習で上級生から暴力を受け、被害届を出した男子生徒(15)が浪人状態になっていたこともあって耳目(じもく)を集めた。
この一件の社会的影響だろうか。スポーツにおける暴力やパワーハラスメントに対し、社会の目は厳しくなっている。6月29日には、千葉の県立高校バレー部の男性顧問(51)が、女子部員の顔にボールをぶつけたとして傷害の疑いで逮捕された。以前の勤務校を「春の高校バレー」に複数回出場させた指導者の逮捕は衝撃的だった。
「顧問が連行される姿を何度もテレビで見て驚きました。身体的な暴力は断じて許されませんが、言葉の暴力にも目を向けてほしい。体の傷以上に痛手を負う子もいるんです」
そう明かすのは東日本に住む会社員の男性だ。私立高校で球技系部活動に所属していた2年生の娘を年度初めに退部させた。
娘の部活には、男子生徒と話してはいけない、大会時に応援に来た親と話してはいけない等々、30を超える部則があった。順守していないと顧問が判断すれば、練習をさせないなど罰が与えられた。極寒のなか、1日8時間の外掃除をさせられたこともある。理由もなく「おまえがコートに入ると雰囲気が悪くなる」と罵倒された。
そのうち顧問の前に立つだけで動悸(どうき)や息切れ、めまいの症状が表れ、プレーできなくなった。そんな状況でも「何やってんだ!」と罵声を浴び、ついには体育館へ行くだけで倒れてしまうように。医師からストップがかかり退部した。男性の娘以外にも3~4人が心療内科にかかっていた。