AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
【画像】直木賞作家・今村翔吾さんの著書『幸村を討て』はこちら
『幸村を討て』は、直木賞作家・今村翔吾さんの著書。戦国時代最後の戦い、「大坂の陣」を舞台に、真田一族、徳川家康、毛利勝永ら戦国武将たち、それぞれの思惑を描く。登場人物たちの躍動感あふれる会話や動きから、武将たちの人物像や時代の空気が立ち上がる。「大きな流れは事前に決めるが、プロットは書かない」と今村さん。「セリフは、出たとこ勝負。瞬時の判断の連続のため、僕にとってはまるで戦です」。今村さんに、同書にかける思いを聞いた。
* * *
今村翔吾さん(37)が初めて歴史小説を手に取ったのは、小学5年のとき。池波正太郎さんの『真田太平記』に魅了され、以来、歴史小説の虜になった。なかでも、真田幸村の兄、信之は数多の武将のなかでも思い入れの強い人物だ。
今年1月、『塞王(さいおう)の楯(たて)』で直木賞を受賞した今村さんの最新作『幸村を討て』の根底にあるのは、そんな真田家の“秘められた家族の物語”だ。幸村は、家康を追い詰めたことで名をあげた武将だが、幸村の冒険譚を想像し読み進めると、不意打ちを食らう。
「幸村小説のなかで、最も早く幸村を死なせてやろうと思った」と今村さんが言う通り、幸村は序盤であっけなく姿を消す。そもそも「幸村」とは、いったい何者なのか。織田有楽斎、後藤又兵衛、伊達政宗ら6人の視点から、それぞれの幸村、そして真田家が浮かび上がる。
「真田家って、“家族っぽいな”と思う。これは、家康や信長の家からは感じられないもの」と、今村さんは言う。
信之は、家康の家臣として生きるため、代々伝わる「幸」の文字を捨て、「信幸」から「信之」に名を変えた。信之の幼名は源三郎で、後に「幸村」で知られるようになる信繁の幼名は源次郎。名の数と生まれた順があっていないばかりか、2人の間にもう1人、兄弟がいるとされる。