「医療は全ての人にとって大事ですよね。誰もがケガをしたり病気になったりする可能性があり、医療は水や電気と同じ、ライフラインの一つという意識で対応しています。最終的な医療の砦(とりで)として、『川崎幸病院に行けば絶対に断られず、治療・手術をしてもらえる』という存在になることを目指してきました」(桃原医師)
また、人口が多いことやアクセスの良さなど、地域性も手術数の多さに寄与していると考えられる。川崎市の人口は約154万人、横浜市は約377万人。新幹線の駅にも、羽田空港にも近い。その分、病院も多く「競争相手は多い」というが、「それでも一線級のチームで真面目に医療に取り組んでいけばどこにも負けない医療ができる」という確信があったと、桃原医師は語る。
桃原医師が目指したのは、「川崎幸病院で治療してよかったね」「心臓病だったら、やっぱり川崎幸病院だよね」と言われるチーム。同院に赴任して以来、日本一のチームになるために治療技術や患者ケアの質向上を推進してきた。
その成果は、紹介患者の数に反映されているといえるだろう。ここ2年で紹介患者数が大きく増加し、紹介元の地域も広範になった。以前は地域の患者がほとんどだったが、現在では診療圏外の大学病院や循環器専門医から、難度の高い手術を依頼されることが増えたという。
各々の医師やスタッフが腕を上げて良いチームを作る。そして24時間365日、いつでもどんな患者も受け入れ、真摯に治療に取り組む。それにより信頼が生まれ、患者が集まる。手術数が増えたのはその結果だと桃原医師はいう。
手術数のランキングがトップに近づきつつある現在、桃原医師は、すでにその先を見据えた取り組みを進めている。
「手術数が増えれば、より難度の高い症例が集まり、社会の期待値も上がります。期待値が大きいほど何かあったときの反響も大きく、その多くは厳しいご意見になります。『期待していたのにダメだった』『期待ほどじゃなかった』と言われないように、技術のブラッシュアップはもちろん、開業医の先生方への手紙の書き方から電話応対の言葉遣いまで、見直しとトレーニングを重ねています」(同)
(文・出村真理子)