代官山
代官山 蔦屋書店キッズコンシェルジュ・瀬野尾真紀さん(写真:本人提供)
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 絵本は大人が読んでも面白い。AERA 2022年5月2-9日合併号の特集「今読みたい本120冊」では、各ジャンルの専門家がおすすめの本を10冊ずつ紹介。その中から、代官山 蔦屋書店キッズコンシェルジュ・瀬野尾真紀さんが選んだ作品をお届けする。

【瀬野尾真紀さんオススメの10冊はこちら】

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 絵本には決められたフォーマットがないため、作家が表現したいことを存分に出せるアートブックとしての一面もあります。作品としての強さがあり、今を生きる大人にも面白いと思ってもらえる絵本を選びました。

 紙媒体だからこその意味を感じるのは、画家junaidaさんの『街どろぼう』。ひとりぼっちの主人公の巨人は大勢に囲まれるようになっても寂しくて、同じ思いの少年と2人で過ごすことで初めて孤独でなくなるお話。たった一人でも気持ちが通い合う存在の大切さを教えてくれます。手のひら大のサイズで表紙は紙、裏表紙は布地。主人公の心情の変化を本の手触りでも表していて隅々まで美しいです。

 詩人の斉藤倫さんの『とうだい』は文学的な表現が心に残ります。「灯台」の視点で進む話で、同じ場所から動けない自分に落ち込んでいたある日、沈没しかけた船を救い、渡り鳥に「あなたがそこにいたから」と言ってもらえる。そのあと、「いつもより夜が待ち遠しかった」という一文で、灯台が自分を誇らしく思ったことが伝わります。自分であることに対して自信を持つ勇気が出ます。

AERA 2022年5月2-9日号より
AERA 2022年5月2-9日号より

 世界から届く絵本もおすすめです。フィンランドのアーティストが1カ月ごとの風の変化をデザインした『風と出会う日々のこと』、インドで一枚ずつ手刷りしたシリアルナンバー入りの『水の生きもの』など、異文化の本は眺めるだけで楽しいです。

 今、絵本は癒やしを与えるだけでなく、発想力や創造力を刺激し、ずっとそばに置いておきたい「モノ」としての価値があります。表現者たちがあらゆる工夫で生み出した作品を、一冊の本の値段で自分や大切な人へプレゼントできる。それは、とても豊かなことだと感じています。

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