ロシアの侵攻から2カ月余り。多くのウクライナ市民の虐殺が明らかとなり、ロシア軍による「ジェノサイド(集団殺害)」の疑いが強くなっています。もっともこの言葉は非常に強い意味を持つので、その用語の使用には慎重にならねばなりません。この言葉が生まれた歴史的な背景やその正確な意味を知るために、『1冊で知る虐殺』を挙げました。解説の石田勇治・東京大学教授はジェノサイド研究の第一人者です。

 まずはこの凄惨な戦争を止めることが最優先ですが、新しい国際秩序を構想していくことも大切だと私は考えています。

 最後に紹介する『アメリカ世界秩序の終焉(しゅうえん)』は、ワシントンDCにあるアメリカン大学のアミタフ・アチャリア教授が、第2次世界大戦後に構築されたアメリカを盟主とする世界秩序は終焉を迎える中、将来の国際秩序として、国家主体のみならず、非国家主体や国際機構も重要な役割を果たす、多層的な国際秩序を展望した一冊です。

 ウクライナ危機に際し、アメリカによる軍事的関与を求める声が高まっています。気持ちはわかります。しかし、アメリカの軍事力に依存した国際秩序しか私たちには選択肢はないのか、考えてみる必要があるでしょう。過去20年間、世界秩序を暴力で攪乱し、多くの市民を巻き込んだのは、アフガニスタンやイラクに侵攻していったアメリカだったわけですから。今日のアメリカの若者の多くも、アメリカが軍事的な覇権国として振る舞うことには反対しています。

 厳しい弾圧の中でも、ロシア国内で必死に反戦の声を上げている人たちもいます。

 いかにか細い声でも、そうした人たちの存在もしっかり視野に入れ、未来に希望をつなぎながら、ロシアも取り込んだ新しい国際秩序を構想していかなければなりません。今回ご紹介した本はいずれも、そうした長期的な課題に多くの示唆を与えてくれる作品だと思います。

(編集部・野村昌二)

AERA 2022年5月2-9日合併号に一部加筆

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