AERA 2022年5月2ー9日合併号より
AERA 2022年5月2ー9日合併号より

 この本が誠実だと感じるのは、西側世界から見たプーチンでなく、プーチンの側近や彼を直接知る人――森喜朗元首相や柔道の山下泰裕さんら日本人もでてきます―-がプーチンをどう見ているかを多面的に描いた点です。側近の証言から、プーチンはアメリカのコソボ介入に反感を抱いていたことを明らかにするなど、禁欲的な筆致に貫かれた誠実なルポルタージュです。

 今回紹介する10冊は、ロシアのウクライナ侵攻が始まる前後に出版された本ですが、その分析はますます重要なものとなっています。

『140字の戦争』は、SNS時代の今、ぜひ紹介したい一冊です。

 2010年に中東・北アフリカ地域の各国で起きた「アラブの春」では、ツイッターやフェイスブックなどのSNSが大きな役割を果たしました。個人でもSNSを活用すればポジティブなチェンジも起こせる時代になったのです。

 しかし、中東を専門に取材するジャーナリストのデイヴィッド・パトリカラコスは、SNSのネガティブな側面にも目を向けます。リツイートするだけで、意図せずしてフェイクニュースを拡散し、戦争に加担してしまうことがあると指摘します。

 ウクライナのゼレンスキー大統領のSNS戦略が注目されていますが、正しい情報であっても一方向的な情報ばかり浴びていると、異なる真実が見えにくくなります。SNSによる新しい戦争を理解する上でも、非常に役立つ一冊です。

『新しい世界の資源地図』は、アメリカの経済アナリストのダニエル・ヤーギンによる、資源戦争の裏側について書かれた本です。

 世界はいま、エネルギーを依存している国と対立することの難しさに直面しています。アメリカはロシア産の石油を禁輸した後、埋め合わせとして、対立してきた産油国ベネズエラとの関係改善を模索しています。エネルギー資源が乏しい日本も、ロシアへの制裁は慎重で、ヨーロッパと歩調を合わせられる部分と合わせられない部分を見極めながら進めています。ウクライナ危機後のエネルギー問題を予言したかのような内容です。

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