■「なまけている」も重要な生存戦略の一つ
タケだけで大きな身体を維持するための仕組みについて、その特徴的な要因をいくつか挙げてみます。
<食べる量が多い>
食べたものが比較的早く身体から排出されてしまう上に、あまり消化できない、となると必要な栄養を得るためには食べる量を増やすことが解決策の一つです。一年中、枯れ尽くすことなく、旺盛な繁殖力を持つタケならそのニーズを満たすことができます。
<食べるタケの部位を選ぶ>
タケは葉、稈、タケノコのそれぞれで含まれる栄養が異なります。この3カ所の中で、葉とタケノコはタンパク質が多く含まれます。それに対して稈は、基本的には葉よりも栄養が乏しい部位ですが、春ごろにのみデンプンや一部の糖類を葉よりも多く含むようになります。同時に稈の繊維質(セルロース)は春に一時的に減るそうです。
<エネルギーの消費を抑える行動>
せっかく得た貴重な栄養を温存するためには、激しい運動をしないことが一つの方法です。一方、肉食獣は狩りをすることで大量のエネルギーを消費してしまいますが、その代わりに栄養価の高い肉を食べることができます。狩りをしなくても、生息地に豊富に生えているタケを食べればその分のエネルギーを節約できます。
また活動時間を減らすことも有効です。季節によりますが、パンダは1日の半分ほどを活動に費やして、そのうちの大部分を、エサを食べることに使います。そして、それ以外の時間はほぼ休息です。あまり動かず、食べて寝てばかりだと「なまけている」とイメージしがちですが、彼らにとっては生きるために非常に重要な生存戦略の一つなのです。
※『パンダとわたし』より一部抜粋・再構成
廣田敦司(ひろた・あつし)
東京都職員。専門分野は野生動物飼育などで博士(理学)。恩賜上野動物園の前・パンダ班班長としてシャンシャンの誕生にも携わった。パンダからネズミまで多種多様な哺乳類の飼育経験がある。休日には野山に出掛け、身近に生息する動植物を観察するなど余暇を楽しんでいる。