ナチュラルな表情が魅力の凰稀かなめさん(写真=事務所提供)
ナチュラルな表情が魅力の凰稀かなめさん(写真=事務所提供)

「1カ月半くらい、それだけを稽古するんです。同期45人でとにかく足上げの練習だけをずっとさせられました。1人でも失敗したら、連帯責任でやり直し。宝塚では、息切れしている姿を絶対にお客さんに見せないんです」

 指導者からは「どんなに苦しくてもつらくても悲しいことが起こっても、笑顔でいなさい」と流儀を教え込まれたという。

 初めてセリフをもらったのは雪組のとき。01年2月―4月、宝塚大劇場での新人公演「猛(たけ)き黄金の国」で、「ええ女子(おなご)じゃの」という一言だけのセリフを演じた。

「本当は台本にはなかったんですが、演出家の先生が『ええ女子じゃの』というセリフを入れてみようと言い出して。みんなが順番に言わされた結果、先生から『はい、じゃあ君』とセリフをもらいました」

 音楽学校を卒業した生徒は男役と娘役に分かれる。かなめさんは最初から男役だった。「身長が173センチあるので、男役しか無理でしたね」と笑うが、宝塚の華はなんと言っても男役。「ベルサイユのばら」「風と共に去りぬ」「ロミオとジュリエット」など、名作に次々と出演していった。
 
 ここで、気になること聞いてみた。娘役とのキスシーンでは、最後の決定的な瞬間は客席からは見えない。本当にキスはしているんですか?

「アハハ、ちょっと勢い余って、唇がぶつかっちゃうことはありますけど、基本はしないです。口紅の色も違いますし。ただ、先輩にやり方を教えてもらったことはあります。若い頃は、キスシーンを同期に見てもらったことも。演じる上では、キスに至るまでのドキドキ感が一番大切だと思っています。たとえば、見つめ合っている瞬間の目線の位置、目を落として相手の唇を見た瞬間、そのときの手の位置、そういうしぐさを全て研究していました」

 そんなかなめさんに転機が訪れたのは、雪組に所属してちょうど10年がたった頃だった。このとき初めて「宝塚をやめたい」と思ったという。

「その頃は演出家の先生たちから、何をやっても『違う、違う』しか言われなくて、何が違うんだろうってずっと思い悩んでいました。私には番手もなかったし、ソロで歌ったこともなかった。何をしても、ダメだと言われたし、10年続けてもそこまで言われるということは、たぶん向いてないんだろうなと思い、もう辞めることに決めたんです」

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