――リース機はロシアの手元に残りますが、整備が行き届かなくなって飛ばせなくなるのでは?

 そのとおりで、旅客機の製造元であるボーイング社やエアバス社の正規のメンテナンスや修理を受けられなくなります。ただ、ロシアには日本よりも進んだ航空産業の素地があります。戦闘機の製造で有名なロシアのスホーイ社はスーパージェット100という中型の旅客機を作れるくらいの技術力を持っています。ですから、接収した機体にロシア流の「魔改造」を施して、だましだまし飛ばし続けるつもりなのでしょう。ただ、それにも限界はありますから、いずれ事故が起きたり飛ばせなくなったりする事態が予想されます。どこかの段階で根を上げて、旅客機を返却する可能性はあるかもしれません。

ロシア経済はどんどん劣化

――旅客機だけでなく、ロシア政府は撤退する外国企業の不動産なども差し押さえると警告しています。

 これもリース機の接収と同様の理由で、ロシア政府はウクライナ侵攻による不利益を国民が目に見えるかたちで被ることはなんとしても避けたい。ロシア側の発言を聞いていると、とにかく雇用がなくなってしまっては大変だ、という。店舗や事務所、工場が接収されるような投資環境は最悪で、投資家からすれば、もう二度とロシアには投資したくないと思うのは明らかです。長期的にはジリ貧になって、ロシア経済はどんどん劣化していく。それでもロシア政府は、いまある雇用を守り、生活物資の生産を続けて、目先の国民生活を維持することを優先しているわけです。

――ロシア進出企業はそれらのリスクをどの程度織り込んでいたのでしょうか?

 北方領土問題もあって、日本人のロシアに対するイメージはあまりよくありません。ですが、少なくともビジネスに関しては、20年ほど前からロシアは「普通の国」というのが、われわれ経済人の一般的な認識でした。もちろん、石油・ガス複合開発事業「サハリン2」のような国益の中核的な案件については、プーチン政権の意向を汲んで、後からロシア資本の参加を認めたようなケースはありました。しかし、自動車や消費財、小売りなど、国家安全保障と関係ない通常のビジネスでは今回のような極端なリスクが顕在化することはほとんど想定されていませんでした。

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問題はロシアの「厚かましさ」