09年に同法が施行される前のペットフードは「何が入っているのかよくわからない」というブラックボックス的な状況だった。法整備された今は、特定の添加物、農薬、汚染物質などの含有量の上限が定められたほか、原材料名や原産国名の表示や、製造・輸入業者の届け出が義務化され、安全性に問題がある製品は国が廃棄や回収を命じることができる。
しかし現実には、すべての製品に目を光らせることは難しいようだ。農水省の担当者は悩ましげに打ち明けた。
「国内で流通する製品はランダムで抜き打ち検査をしているが、成分を分析するには大量のサンプルが必要。個人がSNSやフリマサイトで小袋で売っているような商品だと、検査が難しいこともあります」
また、ペットフードによって食中毒が起きたとしても、毎回国が把握できるとは限らない。人間の場合、病院で食中毒やその疑いと診断されたら、担当医師は保健所に届け出る義務があるが、獣医師はその必要がないのだ。環境省は日本獣医師会に対し、ペットフードが原因と考えられる犬や猫の健康被害が発生した場合は同省の通報窓口に情報提供するよう協力要請をしているが、いまだ“お願い”の域を出ていない。
なぜペットフードは、人間の食品と同じレベルの厳しさでは取り締まれないのか。その背景について、前出の農水省担当者は「ペットが食中毒を起こしているかどうかを判断することの難しさ」を挙げる。
「まずおなかの強さの個体差が人間以上に大きい。室内飼いか屋外飼いかによっても細菌への抵抗力は違い、同じペットフードを食べてもおなかを壊す子と壊さない子がいる。また、動物は拾い食いなどをするので衛生管理が難しく、ペットフードと体調不良の因果関係を明らかにするのは至難の業です」
国による監視には限界があるのだ。
■酸化リスク高い高温加熱の商品
ネット社会の功罪もあり玉石混交なペットフードが出回る一方で、こだわりぬいた製品づくりに励む企業もある。
犬猫生活株式会社(東京都)は、人間が食べても大丈夫な材料で作った自社のペットフードを“ヒューマングレード”という言葉で表現する。原材料名を見ると、生肉(鶏肉、牛肉)、金沢港の旬の魚、鶏レバー、イモ類(ジャガイモ、サツマイモ)など、たしかに我々の食卓になじみ深い食材の名前が並んでいる。